ERP選択のポイントは「手離れの良さ」SIへ依存しない開発体制を整える(前編)

瀬尾英一郎(月刊ソリューションIT編集部) 2005年01月18日 13時00分

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グループシステム統合/富士機器工業

 多くの企業がIT要員を削減している中、富士機器工業は社内開発力の強化を図っている。自力でメンテナンスできず、システムに手を入れる度に外部のSIに依頼しているようでは、業務プロセスを柔軟に変更できないと考えたのだ。会計と生産管理分野へのパッケージ導入もメンテナンス性の良さを評価ポイントとしたという。

 富士フイルムグループの富士機器工業は、製造関連子会社のエフ・アイ・ティと秋田エフアイティの生産管理系システムを、東洋ビジネスエンジニアリングの「MCFrame」で統合。現場主体の生産工程管理と、受注・購買の本社集中管理体制に移行した。同時に会計システムにSAPの「R/3」を導入し、富士フイルム本体と接続した。

機器事業部 業務部長(業務・資材)兼IT・IE室 宮川和由氏

 同社では、80年代末から90年代にかけて生産機能の一部を子会社化し、外出ししていた。岩手県花巻市にエフ・アイ・ティ、秋田県河辺郡に秋田エフアイティを設立し、器機製造を委託する。富士機器工業からトスした生産計画を元に、両社が独自の生産計画を立案。資材も単独購入していた。

 今回のシステム導入を契機に、再び3社を統合したわけだ。もちろん組織的には別会社のままだが、受注と月次レベルの生産計画は富士機器工業が一元管理。資材調達も集中購買に移行しつつ、日次レベルの工程計画や発注は現場に委託する、分散型集中管理体制に切り換えた。

 プロジェクトを率いた機器事業部業務部長兼IT・IE室の宮川和由氏は、「経営が右肩上がりの時期には、生産機能を独立させることで生産量の増大を図りました。けれども現在の厳しい環境では、リソース統合による全体の効率化と適所化が必要と考えました」と語る。

ユーザー・システム・カルテ
会社概要 名称(敬称略) 富士機器工業
所在地 神奈川県南足柄市竹松1250
業種 医療診断用機器などの開発・設計・製造
総従業員 521名
プロジェクト概要 システム名称 会計システムおよび3社統合型生産管理システム
適用業務 会計・生産・調達
システム形式 C/S
カットオーバー時期 2004年7月
社内開発スタッフ 常時5、6名
協力インテグレータ 電通国際情報サービス
開発に要した日数 約1年半
システム構成 アプリケーションソフト SAP R/3、MCFrame
DBMS Oracle

富士フイルムグループ全体のIT計画との兼ね合いを探る

 今回のプロジェクトは、半ば自然発生的に始まったものだった。有志が集まり勉強会を開催し、意見交換をしていた中から、業務改革の必要性が強く問われてきたのだ。3社を統合し、生産計画立案と製造を最適化するというビジョンも、この勉強会の中から出てきたものだ。

 そこで意見をまとめて提案書を作成し、社長に直言したところ、認められて正式なプロジェクトとしてスタートした。

 また富士フイルムグループ全体としては、連結経営力強化のための会計システム導入を推進しており、富士機器工業でも会計システムの刷新を計画していた。2つのシステム化案件への対応と、企業力およびグループ力の強化が、プロジェクトの狙いだ。

 まず会計システムをどうするか検討した。富士フイルム本体では既に会計にSAPのR/3を導入しており、グループ企業にも同パッケージの導入を推奨している。

ERP推進室 阿部喜秀氏

 強制ではなく、グループ会計に必要なデータを規定のタイミングでトスできるのであれば、システムの種類は問わない。

 だが「一口に会計データといっても、データの中身や採取するタイミングなどは、パッケージ毎に微妙に異なっています。それを統一する手間を考えると、やはり同じシステムを導入した方が手がかかりません」(ERP推進室 阿部喜秀氏)と考えられた。そこで会計についてはR/3の採用を決めた。

 生産管理システムは、3つの選択肢があった。まずは会計と同じくR/3を導入する案。2番目はスクラッチ開発、3番目はMCFrameを採用する案だ。

A案
会計・生産管理共にR/3
会計と生産管理がリアルタイムで統合されており、全体構成としては他の2案よりシンプル 導入・運用コストは高い
パッケージのため、バージョンアップにより最新の技術を利用できる
ただし、バージョンアップを受けるにはサポート契約が必要で、このコストが高い
R/3に精通した外部のSIベンダを利用し、効率的な導入が可能
システム内部のロジックは基本的にブラックボックス。自社単独での追加開発は困難で、現場のニーズにタイムリーに対応できない
B案
会計:R/3
生産管理系:自社開発
連結決算対応を考慮し、会計はR/3のFI・COモジュールを使用する
生産管理機能は従来の「PCOS」をベースに必要な機能を追加開発
R/3の会計システムと生産管理システムのインタフェースを開発する必要あり
生産革新業務フローの詳細に合致したシステムを構築可能
社内に開発ノウハウが蓄積されるが、社内でのSEの確保や育成も必要になる。開発期間のリスクも大きい
現場のニーズに柔軟かつ迅速に対応可能
C案
会計:R/3
生産管理系:MCFrame
連結決算対応を考慮し、会計はR/3のFI・COモジュールを使用する
生産管理系は国産パッケージMCFrameをベースに開発
R/3の会計システムと生産管理システムのインタフェースを開発する必要あり
MCFrameはバージョンアップがサポート条件になっておらず、追加機能の要否だけで判断できる
MRPエンジン以外はソースが公開されており、SIベンダの協力も得られるため短期開発が可能
強いカスタマイズ性が特徴で、自力での追加開発も可能。そうなれば、現場のニーズにも柔軟かつ迅速に応えられる

 選択の最大のポイントは、「業務へのフィット率」と「手離れの良さ」だった。企業の競争力の源泉となるのは生産のプロセスだ。パッケージに合わせることで、その強味を消してしまっては元も子もない。

 また自力で手を入れられることも重要だと考えられた。「導入の時にSIベンダの協力を求めるのは仕方ありません。ですが運用段階に入ったら、なるべく自力で追加要件に対応できるようにしたかったのです」(同)。

 IT担当者を削減したり、開発をアウトソースする企業が急増している。だが、富士機器工業では逆に「開発力は社内で賄うべき」と考えている。

IT・IE室 IEグループ 下田清史課長

 競争が激化する中、コアプロセスである生産業務に見直しをかける回数は、今後ますます増えてくるはずだ。そうしたユーザー要件に迅速に応えられる力が必要と判断したのだ。IT・IE室IEグループの下田清史課長は「システム部門が生産管理部門の足を引っ張るようなことは、絶対にあってはいけないと思います」と言い切る。

 それぞれのメリットとデメリットを考慮しながら定性評価とコスト比較を繰り返した。

 R/3を選択した場合、バージョンアップにより、常に最新の技術を利用できるというメリットがある。言うまでもなく、会計システムとの連携を考慮する必要もない。

 ただし、導入と運用のコストは高い。また、システム自体がブラックボックス化しており、何らかの追加開発が必要になった場合、自社対応が困難だ。

 MCFrameは、MRPエンジン部分以外はソースが公開されており、スキルを蓄積すれば、追加要件への自社対応もできると考えられた。ただし、R/3とのインタフェース部分を独自に開発する必要がある。

 スクラッチ開発を採用すれば、既存システムをベースにするため、開発期間とコストを最も抑えられると考えられた。社内に開発ノウハウが蓄積され、カットオーバー後の追加要件にも迅速に対応できる。だが、社内でのSEの確保や育成が必要で、工数や工期の見積りが難しかった。

 最終的には、柔軟性と手離れの良さという2条件をクリアしていることから、MCFrameを選択した。また、フレームワークがあることで、開発工数・期間がある程度正確に見積もることができる点も、採用を後押ししたと言う。

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