多種多様な顧客のニーズに応えるラインアップが重要
その話は顧客やパートナーだけなく社内からもよく聞かれる質問ですが、決してそのようなことはありません。ユーティリティコンピューティングは確実に普及するビジネスモデルであると考えていますが、すべてがそこに収まる訳ではありません。
自動車を例に取るとわかりやすいのですが、人が自動車で移動しようと思ったときには、購入する、リースする、レンタカーを借りる、タクシーに乗るという選択肢があります。東京で生活するには、タクシーで移動するのが一番手軽で、たくさんの台数のタクシーが走っています。一方、シリコンバレーで生活しようと思えば、タクシーの台数は少なく、走行距離に応じて課金されるモデルはユーザーに非常に割高となります。
このタクシーの課金方法が、必要に応じてリソースを利用するユーティリティコンピューティングのモデルをわかりやすく示しています。ユーティリティコンピューティングは非常に優れたモデルですが、顧客のニーズは多種多様であり、それに答えるための製品やサービスを揃えていく予定です。
--ユーティリティコンピューティングのような利用モデルが登場することによって、リースにするのかユーティリティとして利用するのか、顧客はシステムを選定する際にむしろ迷ってしまうのではないでしょうか。
企業のCIO、CTOから同様の質問を受けることがよくありますが、サンとしてはそのようには考えていません。サンの目指すユーティリティコンピューティングは、企業が自分で使うパーツを選択して利用する方式です。
オープン化されたシステムの中で、必要な部分を必要なだけ利用するという形態なので、クローズドなシステムに自社のIT環境を丸ごとアウトソースするようなブラックボックス化は起きません。また、必要となる経費も最低限に抑えられます。企業は、そこで浮いた経費を自社のコアコンピタンスの開発に充てるのが成長のためのカギとなります。
一方で、今後、企業が業界でトップになるためにはITの活用が不可欠であり、それには自分たちがきちんとIT環境をコントロールできなくてはなりません。ブラックボックス的なシステムに、一括的なアウトソースを行えば状況を把握できなくなってしまいます。
積極的なオープンソース化が産業全体の底上げにつながる
--各分野でのユーティリティコンピューティングを実現するには、サンがそこに関わるすべてのデバイスを開発・保持する必要があるのではないでしょうか。
そこが、サンのオープンシステム戦略の利点だといえます。オープンシステムとして標準化されているものであれば、簡単に不足している部分を取り込めます。一方で、ミッションクリティカルな部分などは、一部のオープンにしていないサン独自の技術が使われた製品を利用します。さらに、そこの各所にサンの製品が使われていれば、密に連携がとれ、より高度なサービスが提供できるようになります。
例えば、サンではAMDプロセッサとLinuxを組み合わせ、BEAのアプリケーションサーバの上にJavaアプリケーションを使ったシステムを提供しています。ただ、それをSPARC、Solaris、Javaというようにすべてサンの製品で構成することも可能です。つまり、オープンシステムと独自システムを企業が求めるサービスレベルに応じて提供するという姿勢ですね。
このメリットは家電に置き換えるのが簡単です。家電のテレビとビデオの接続などには標準インターフェースが使われていて、健全な競争環境ができあがっています。このため、ユーザーはシャープのテレビ、松下のビデオ、ソニーのDVDという自由な組み合わせができます。一方で、メーカーの統一されたコンポーネントを購入すれば、何か問題が生じた場合の保証なども可能になりますよね。つまり、より高いサービスレベルと保証を実際に提供できるのがサン製品の組み合わせとなるのです。
サンは、いまやさまざまなデバイスで標準のプラットフォームとして使われているJavaをオープン化し、その後、プロセッサであるSPARCを、そしてOSのSolarisもオープンソースとして開示しました。これは、業界の発展が自社の収益拡大につながるという考え方です。
わたしは、自社製品のみでトータルのプラットフォームを提供できるのは、HPが現在一休みしている状況を見ると、IBMとサンだけだと考えています。そして、クローズドなIBMとオープンなサンでは必要とするコストも大きく異なるので、そこにビジネスの勝機があると考えています。