ビジネスとシステムの知識を完全分離する先進2社のIT人材配置法 - (page 2)

瀬尾英一郎(月刊ソリューションIT編集部)

2005-04-19 13:00

 その点、IT担当者は常にそうした他部門やシステムとの関係を気にしている。スタンドアロンで稼働しているシステムなど、ほとんど存在しない。何らかの変更を加えれば、必ずといって良いほど、別システムに影響が及ぶ。変更と影響分析を常にセットにして考える癖がついているわけだ。

 こうした理由から、デルではIT担当者を、現場とは切り離した独立の部門に配置するようにしたわけだ。

デル 山田祐治CIO

 実際のビジネスプロセス改善とシステム開発では、まずビジネスプロセス検討の段階から、IT担当者が参画する。「位置づけとしては、システムアナリストとビジネスアナリストの中間といった所です」(山田祐治CIO)。

IT部門の役割は知識を駆使した積極提案

 独立したIT部門は、どうしても「受け身」になりがちだ。特にデルでは、IT導入の責任を、IT部門だけではなく現場部門も担うことになっている。「システムを入れましたが、当初考えていたものと少し違ったこともあり、予想されたほどの効果はあげられませんでした」では許されない。ビジネス部門のマネージャーは新たに導入したシステムを部下がきちんと使いこなし、最大限の効果を出すよう責任を持つ。新システム導入後は、毎回必ずトレーニングコースを設け、Eラーニングなどの教育コースを準備。トレーニングを通じて、システムの使用を積極的に身につける機会を用意している。このようにデルは、ITの業務への浸透を図るような文化を持っている。

 だがシステム部門としても、言われた案件を忠実にこなしていくだけでは、ITの専門家である意味がない。ビジネスのゴールを見極め、ユーザーのリクエストを咀嚼した上で、最善のITの像をイメージ。逆に提案していくことが、専門家としての役割だと、デルでは考えている。

 IT部門を提案型に変えていくためには、日頃のマネージャーの役割が重要だという。各部門や経営層からは、様々なプロジェクト案件や開発作業が降ってくる。それらを全社的な戦略や経営方針に当てはめ、どのような役割を担っているのか、大局的に見てみることが大事だ。

 これは別段難しいことではない。ただ、習慣として身につけるのは、一朝一夕には不可能だ。常日頃のマネージャーによる教育が大事だという。

 たとえば、デルのアジアパシフィック・ジャパンでは、3年で売上を3倍に伸ばす計画を進めている。

 この事業計画を現実のものとするために、何を検討すべきか? 必要とされる業務要件や業務を支援するITの仕組みなどを、ブレークダウンしてみる。売上が3倍になるということは、トランザクション量も3倍になるということだ。そうした大量処理に耐えるだけのシステム基盤が必要とされるわけだ。単に「処理効率を3倍に向上させる」というシステム要件だけに目を向けるのではなく、それが業務、さらには経営にどのようなインパクトを与えるのか、常に意識するよう、デルでは心がけているという。事業計画とシステム開発案件の関連性を理解しておくことで、プロジェクトの目的や目標が明確になり、メンバーの意識も向上することになる。

ITを知る前に業務知識常に現場の視点に立つ

 IT専門の担当者だからといって、ITのみを見ていれば済むわけではない。むしろ常にビジネスを意識し、業務の目線でシステムを考えることが大前提になっている。

 プロジェクトのディスカッションの中で、「私はIT畑の人間ですから、業務のことは存じません」では許されない。IT担当者も一緒になり、ベストのプロセスを考えていくことが重要だ。

 これは、部門担当者のみで議論を進めると、新しい発想がなかなか出ないと言う理由もある。毎日の仕事に忙殺されている担当者は、なかなか頭の切換ができず、どうしても、現状のプロセスをベースにした発想をしがちだ。

 山田CIOは「ユーザー部門から出てくるのは、『改善案』が大半で、『改革案』はなかなか出てきません」と語る。

 そこでIT部門という「外部」の視点を追加し、他部門のプロセスとの整合性を取りながら考えていった方が、より良い提案が出せると、同社では考えている。当然IT担当者には、業務知識が要求される。

 あるプロジェクトを経験すれば、該当業務分野の知識は身に付く。導入後に仕様変更や追加開発が発生した場合にも、素早い対応がとれる。

 だが、1分野だけを任せていると、知識に偏りができる。そうすると、全体最適の視点が徐々に失われていく。これでは、業務部門からITを独立させた意味がない。そこでデルでは、同じIT部門内でも、2、3年の周期でローテーションしているという。

 いかに普段から現場の視点を持つようにと心がけていても、実際の業務担当者と同じだけの知識を持てるわけはない。プロジェクトの最初は、業務を学ぶことからスタートする。E-ラーニングを利用する場合もあるが、やはり最も短期間で業務を理解するのは、実際に業務に携わってみるのが一番とのことだ。

 物流関係の仕組みを構築するなら、倉庫業務などを体験し、おおまかな業務プロセス図を描けるようになるまで学習するという。「本当は1カ月くらいかけられれば良いのですが、残念ながらそんな余裕はありません。それでも数週間で、大体の業務の流れは把握できます」(山田CIO)とのことだ。

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