「新しいビジネス価値を創造できない企業は消え去る」--米Sterling Commerce最高マーケティング責任者

日川佳三(編集部)

2005-07-27 00:43

 「企業は現在、生き残りをかけて企業間連携(B2B)を図っている。もはや社内だけを見ていては生存競争に勝てない。社外とのコラボレーションだけが新たな付加価値を生む」--。EDI(電子データ交換)ソフトで歴史を持つB2Bベンダー、米Sterling Commerceは、生き残る企業とそうでない企業との差をこう定義する。

 米Sterling Commerceの日本法人であるスターリングコマースは7月26日、顧客向けのセミナー「B2B Strategies 2005」を開催し、同社が企業成長のカギであると位置付ける、企業同士の綿密な連携について説いた。同セミナーの講演のために来日した同社グローバル・マーケティング副社長でCMO(最高マーケティング責任者)であるノーラン・ローゼン(Nolan Rosen)氏に、現在の企業の収益構造について聞いた。

--現在の企業が置かれている状況について教えて欲しい。

 企業の課題はコスト削減から売上増収へと移行している。売上額を増やすための最重要課題は、企業間のコラボレーション、つまり企業と企業が共同でビジネスを遂行する環境を作ることだ。これを我々はMEC(Multi-Enterprise Collaboration)と呼んでいる。情報技術の力を借りて、1つのビジネスの流れに関わる企業やパートナを、いかに1つにまとめ上げるか、ということだ。

 考えてもみたまえ。業界には業界ごとのリーダーが存在している。米Dellや米Wal-Mart Stores、トヨタ自動車や米Cisco Systems。彼らは一体、どうして業界のリーダーになれたのだろうか。その理由は、ビジネスを異なった視点で見ることができたからだ。社内だけではなく、社外に目を向けたということだ。社外に目を向けることで、差別化の要因を見出すことができたのだ。

 あらゆる企業のCEO(最高経営責任者)は、自社の成長を望んでいる。成長の種がどこにあるかと言えば、社内ではなく社外にあるのだ。その形態は多様だ。アウトソーシングであったりオフショア開発であったり、BPR(ビジネス・プロセス再構築)であったりする。成長した企業は、こうした社外の要因に競争力の種を見出したのだ。

 米Forbes Magazineが実施した調査によると、トップ10企業の成長の要因は、外部に目を向けていたことにある。米Sterling Commerceの内部調査でも、各種の業界において、MECの実装が生産性の向上に寄与したという結果が出た。米Yankee Group Researchの調査でも、IT関連の支出は、社内よりも社外に向けているものが増えているということが分かってきている。

--従来の電子データ交換から一歩進み、企業の情報システム同士を連携させる企業は増えているのか。国による需要や進ちょくの違いはあるか。

 日本と米国で、同じことが起こっている。おそらく企業の75%は、まだMECの基本的な部分、つまり、EDIによって注文書のやりとりができる段階にいる。25%の企業は、これは売上げ上位の25%という意味でもあるが、先進的な企業間コラボレーションを遂行している。

 BPRの元祖であるマイケル・ハマー(Michael Hammer)はかつて、「Virtual Enterprise」(仮想企業体)と呼ぶコンセプトを提唱した。仮想企業体までの段階に近付いている企業はまだ少ないが、いずれあらゆる企業が先進的な場所に移行していく。製品やサービスにはライフサイクルがあり、コモディティ化も進む。新しいビジネス価値を創造していかなければ生き残れない。企業の外に目を向けることは、企業コミュニティを形成することは、もはや避けることのできないトレンドなのだ。

 米Dellは、自分達の会社を1つのEntity(実在、存在)とは見ておらず、サプライチェーンを構成する一部である、という認識を持っている。したがって、米Dellが提供するサービスは変革を続けていくことになる。米国の保険会社のProgressiveでは、同社の見積もりを提示するだけでなく、競合する5社の見積もりと比べられるようにしている。パートナとのコラボレーションではなく競合他社とのコラボレーションという形にまで世の中の実態は進んでいるのだ。

--MECは技術のコモディティ化の流れを抑えられるのか。

 MECはコモディティ化の流れに何らかの影響を与えるものではない。MECが実現するのは継続的なイノベーションだ。業界や経済の状況がどう変わっても、MECによって企業は競争力や差別化要因を見つけることができる。MECによって経済のトレンドを変えることはできないが、企業はより機敏に動けるようになり、商品化行程の短縮やイノベーションの継続が可能になる。

 米国のトレンドの怖い例を示そう。米The McGraw-Hill Companiesの一部門であるStandard & Poor'sの各付ランキング「S&P Index」において、1957年に500社のリストに入った企業のうち、1998年に生き残っている企業は74社しかいないという点だ。S&P Indexのリストに残った企業に至っては12社しかない。500社中わずか74社だけが差別化のポイントを見出せたのであり、残りの企業は差別化のポイントを見出せなかったために生き残れなかったのだ。

--あらゆる企業が企業間コラボレーションを遂行する世界を作るために米Sterling Commerceはどのような働きかけを行っているのか。

 現在世界中に3万社以上の顧客を抱えているが、我々が1からコンセプトを作って売り込んでいるのではなく、あくまでも顧客の要求に応えていくという形を採っている。例えばFortune 500の70%が我々の顧客だが、こうした企業が抱えている悩みを把握し、応えていっている。我々が提供する価値は、何も技術のための技術というわけではないのだ。まず初めに需要ありきということだ。

 もちろん企業によって企業間コラボレーションの進展の度合いは異なる。MECは1つの連続体であり、段階を踏むということだ。中にはパートナとファイルのやり取りだけをする企業もいるが、これもMECの1つの姿だ。次の段階が、コラボレーションやコミュニティの形成だ。あらゆる企業がMECを採用している。時間次第で、MECの段階が進んでいくのだ。

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