その1つが「アドオンのテンプレート化」だ。アドオン開発した部分をテンプレート化し、他事業所への横展開時に使えるようにしたのだ。
そしてこの「アドオン」そのものが、運用・保守の工数削減に多大に貢献しているという。
同社のR/3は、「標準画面をNECトーキンのオリジナル画面がすっぽり覆っています」(宮口部長)と言うほど、大量のアドオン開発が施されている。エンドユーザーの操作画面は、ほとんどオリジナル。R/3の標準画面は、1つの画面内でタブを切り替え、多様なデータを入力できるようになっている。だがNECトーキンでは逆にタブを極力排除。シンプルで入力項目数の少ない画面としている。
アドオン開発は画面に止まらず、業務ロジックやフローの部分にまで至っている。宮口氏は、「SAPやコンサルタントに見せたら思い切り怒られそうですね」と笑う。
「アドオンが良くない」と言われる原因の1つにバージョンアップがある。オリジナルで開発した部分は、バージョンアップ時のサポート対象外になるため、自力で対応する必要がある。もちろん動作の保証も受けられない。
もちろん、NECトーキンもこうした不安要素は承知していた。それでもあくまでオリジナル画面にこだわったのは、これもバージョンアップ対応工数を減らすためだったという。
バージョンアップの際には、ユーザーインターフェースも変化する。これは使用者の声を取り入れ、より使い勝手の良い画面にしようというベンダ側の親切心だ。だが、それが自社にとって望ましい方向での進化であるとは限らない。それに少なくとも、ようやく慣れてきた操作画面を一方的に変えられてしまうことに対する戸惑いはある。操作マニュアルの作り直しにも、膨大な手間がかかる。両者を比べた場合、最初に画面を作りこみ、長い年月使い続ける方が、トータルの工数は少なくなると判断したのだ。
実際、NECトーキンが最初に導入したバージョン3.0から現在の4.6cまで、ユーザーインターフェースは大きく変わった。NECトーキンは3回バージョンアップをしているが、その度にマニュアルを整備しユーザーに講習会を実施するのは、かなりの手間だったはずだ。
画面にこだわったのは、作業効率にも大きく起因している。R/3に限らず、ERPパッケージの多くは様々なデータを管理できるように設計されており、入力項目の数も多い。そして、画面にそれらの項目の入力エリアがあると、担当者はついついデータを入力してしまう。本来は不要なデータであるにも関わらずだ。結果、他のデータとの不整合を起こし、処理がストップすることになり、原因究明とリカバリーに多大な時間を費やすことになる。
それならば、必要な項目のみを画面に表示し、余計な操作ができないようにした方が良い。そう判断したわけだ。結果的に、オリジナル画面を採用してからトラブルの数は激減したという。
現在、「標準部分とオリジナルの部分の比率は、1:9くらい」という。
そんなにアドオン開発をするなら、最初からスクラッチで開発した方が良かったのでは? という疑問も起こる。だが「ERPの堅牢なDB構造は、ユーザー企業が作れるものではありません。製造業ですからMRP(資材所要量計画)計算は必須ですが、これを正確に回すためのDBやエンジンを作るのは、われわれではお手上げです」(宮口氏)とのことだ。