第3回 単一の情報ソースの提供〜データウェアハウスとデータマート〜 - (page 2)

堀内秀明(ガートナー ジャパン)

2005-11-24 23:00

BI向けデータ基盤のありかた

 BIインフラストラクチャの代表的な構成要素として、データ基盤としてのデータベースがある。一般的に、データウェアハウスやデーターマートという呼び方がされているが、それぞれの定義や利用方法に混乱が見られる場合が多い。

 データウェアハウスは、業務系データベースとは独立した、情報系アプリケーション専用のデータベースであり、ある程度長期間の履歴データをできるだけ生に近い形で保管し、多様なアプリケーションの要求に応えられるよう、可能な限り正規化されたアプリケーション中立なデータモデルを使用したうえで、(多くの場合)複数サブジェクトのデータを統合して保管しているという特徴を持つ。データマートは、データウェアハウスと同様、情報系アプリケーション専用のデータベースであるが、特定アプリケーション向けに最適化されている点がデータウェアハウスとは異なる。

 新規のビジネスインテリジェンス・アプリケーションを迅速に展開せざるを得ないような場合には、必要なだけのデータを抽出・格納し、特定アプリケーション向けに最適化したデータマートを構築することがある。このような、業務系アプリケーションから直接データを抽出して構築するタイプのデータマートを、独立型データマートと呼ぶ。

 しかし、独立型データマートが乱立する状況では、業務系システムからのデータ抽出のプロセスが重複しているために、規模の拡大に伴い、データ抽出が複雑化し、コストが急速に上昇する。

 そのために、目的に応じて独立型データマートを次々と構築すれば、データウェアハウスは不要であるという考え方は正しくない。また、データ抽出プロセスの複雑化により、データマート間のデータ一貫性、言い換えれば“Single Version of Truth”の実現も非常に困難になってしまう。

 ガートナーでは、多くの場合に最も適切なトポロジーは、アプリケーションに中立なデータウェアハウスとデータウェアハウスのデータを特定アプリケーション向けに抽出した従属型データマートの組み合わせであると考えている。

 この方式は、データのETL(Extract/Transform/Load)プロセスの重複を最小限に抑えられるだけでなく、業務系アプリケーションに変更や追加があった場合の影響を最小限にできるなど、変化に強いアーキテクチャであるからだ。

BIインフラストラクチャのトポロジー
(出典)ガートナー

 データウェアハウスとデータマートを組み合わせる方式には、主にパフォーマンス上の理由から、データウェアハウスを直接利用せずに多くのデータマートを構築するハブ&スポーク型もある。しかし、この方式では、データマートの数が増加するに従い、運用管理コストが増大しやすいという課題がある。

 また、データインテグレーション・ミドルウェアを使用し、業務系のデータベースに直接アクセスすることで、仮想的なデータウェアハウスを構築すれば、物理的なデータウェアハウスは不要であるという考え方もある。近年では、このようなテクノロジーをEII(Enterprise Information Integration)と呼ぶ。このEII方式は特定の用途に有用な場合がある。

 しかし、EII方式は、データ分析に必要な履歴データの量や分析に必要なチューニングとトランザクション処理に必要なチューニングに課題が多い。また、複数のデータソース間の標準化が必要となるため、汎用の物理的なデータウェアハウスの代替にはなり得ないのである。

 最後にBI向けインフラストラクチャに求められるポイントを、以下にまとめる。

  • "Single Version of Truth"(信頼できる唯一のデータソース)
  • 変化への対応力(高い拡張性と柔軟性)
  • 管理の容易性(少ない労力で提供可能)

堀内 秀明(Hideaki Horiuchi)
ガートナーリサーチ ソフトウェアグループ ビジネスインテリジェンス担当主席アナリスト
日本国内のデータベース・ソフトウェアなどのソフトウェア市場動向・将来予測・競合分析ならびに、ビジネスインテリジェンス・システムの製品選定、システム導入に関するアドバイスを担当。
ガートナー ジャパン入社以前は、国内大手SIベンダーにて10年間、製品調査、システム提案・構築ならびに技術支援に従事。
ガートナーが最新の情報と提言を結集するイベント「Gartner Symposium/ITxpo 2005」(2005年11月30日〜12月2日)にて『インフォメーション・アキテクチャーの役割と重要性』をテーマに講演を行うほか、2006年の「ビジネス・インテリジェンス・サミット 2006」(2月22〜23日)では、チェアパーソンを務める。

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