グリッドコンピューティングの現在--TCO削減からディザスタリカバリまで - (page 2)

田中好伸(編集部)

2006-02-03 23:50

 NECは2003年4月から、経済産業省と独立行政法人の情報処理推進機構(IPA)主導で、日立製作所と富士通と共同で企業向けのグリッド「ビジネスグリッドコンピューティング研究開発事業」を進めている。この事業は、3年間で合計150億円のプロジェクトだ。GGOは、このプロジェクトで得られた成果をもとに製品化される。

 WebSAMシリーズはこのほかにも、ストレージを管理する「WebSAM iStorageManager」、ネットワーク機器を管理する「WebSAM NetvisorPro」、システム全体を監視する「WebSAM SystemManager」なども用意される。

NECが提供するグリッド関連ソフトウェア

本番系と待機系でリソース共有

 同社は、先に挙げたプロジェクトのほかに、グリッドを実際のシステムに導入しての実証実験を行っている。この実証実験は、(1)NEC社内の営業システム「BEAT」へのグリッド適用、(2)自動車メーカーであるマツダでのグリッド導入――という2つだ。

 (1)の営業システムBEATは、サーバ台数約160、トランザクション処理が1日当たり最大93万件、ユーザー数1万人以上という「NEC社内でも最大規模の超ミッションクリティカルシステム」(石倉氏)。BEATは、基幹系と検索系という2つからなるが、負荷が高まる時期が異なる。基幹系では、“月締め”のために月末に負荷が高まり、一方の検索系は経営実績を分析するために月初に高い負荷がかかる。

 実証実験は、負荷が異なる基幹系と検索系という2つのシステム間でリソースを共用するためにグリッドを適用して、その効果を確かめようというものだ。実験では、ウェブサーバとアプリケーションサーバを統合することで、リソースを融通しあうと共に台数を削減。また、システムを自立運用で自動化させることで、システムの管理要員を減らしている。

 石倉氏によれば、この実証実験では「基幹系と検索系のリソースを共有することでTCOを20%削減することに成功している」という。

実証実験の実績を製品化

 もう一方の(2)のマツダの実証実験では、本番系システムと待機系システムのリソースを柔軟に割り当てて、リソースの有効活用できるかどうかを確認している。この実験は、2004年9月から始まっている。

 マツダは、販売拠点や工場が使うサーバを広島のデータセンターに統合しているが、これとは別に待機系のデータセンターを広島の別の場所に設置。本番系と待機系に同じ業務をグリッドで稼働させることで、システム全体の稼働率を向上させている。

 また、本番系に障害が起きて停止した場合に、自動的に本番系の作業を待機系に割り当てて、短時間での移行ができるかどうか、つまりグリッドがディザスタリカバリで有効かどうかも検証している。このようにマツダの実証実験は、システムの運用管理効率化、ディザスタリカバリの有効性と共に、広域負荷分散の点も評価している。

 NECでは、(1)と(2)の実証実験で得られた実績を製品化して提供するとしている。

特定少数から不特定多数へ

 石倉氏は、NECのグリッドに対する取り組みをこのように説明した後で、今後のグリッドの展望を説明している。その中で石倉氏はグリッドの適用形態を、(1)センター内グリッド、(2)企業内広域グリッド、(3)パートナーグリッド、(4)グローバルグリッド――の4つを説明している。

 (1)のセンター内グリッドは、先に挙げたBEATのように、企業の中のシステムをグリッドでリソース共有を実現するものであり、(2)の企業内広域グリッドは、マツダの事例にあるように、企業が抱える分散した拠点間でシステム全体を共有するというものだ。

 (3)のパートナーグリッドとは、グリッドの範囲を企業1社から特定多数の企業間で実現する。この場合、各企業間で分散するシステムの待機リソースを共有、より少ないリソースで効率的にバックアップシステムが用意できるという。(4)のグローバルグリッドでは、範囲を不特定多数の企業間でリソースを共有する。

 「センター内グリッドは今後、普及が始まると見込んでいる。企業内広域グリッドについては、構成される技術が今後1〜2年で完成すると思っている。これにより、パートナーグリッドとグローバルグリッドに対する取り組みが加速するだろう。実社会の普及時期としては、パートナーグリッドが3〜5年後、グローバルグリッドはそれ以降になると見ている」(石倉氏)

石倉氏は、パートナーグリッドが3〜5年後、グローバルグリッドが5年後以降に普及するだろうとの見通しを明らかにしている


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