既存のインフラを最大限に活用するアドビ
Adobe Readerの無償配布により、電子ドキュメントの世界標準としての地位を確立したPDF(Portable Document Format)と、ブラウザのプラグインとしての再生環境を同じく無償配布することで、インタラクティブなウェブコンテンツのプラットフォームとして広く普及したFlashテクノロジー。アドビはマクロメディアの買収によって、この両方のプラットフォームを持つ企業となった。Adobe ReaderにFlash Playerという、現在のコンピューティング環境において、ほぼ標準と言ってよいプレゼンテーションのインフラを、ビジネスアプリケーションの提供においても最大限に活用していくのがアドビの戦略となる。
これまで、アドビはAdobe Readerを「ユニバーサルクライアント」として、マクロメディアはFlash Playerで実行されるウェブアプリケーションを「リッチインターネットアプリケーション(RIA)」として、それぞれに推進していた。アドビ、マーケティング本部公共・法人市場部部長の小島英揮氏は「キーワードや呼び名は違うが、両社はほぼ同じことを目指していた。つまり、すでにユーザーの手元にある環境をそのまま使い、タグ言語だけでは不可能な機能を提供するということだ」と説明する。
さらに小島氏は、企業システムにおけるリッチクライアントのあるべき姿として「社内と社外のいずれでも利用可能」である点を強調する。
「ウェブアプリケーションの本来の良さは、企業の内外を問わず、どこでも自由に使えること。その良さを引き継ぎながら、強力なデスクトップ環境を提供することが、リッチクライアントには求められるはず。アドビのソリューションにおいて、それを可能にするのが、Adobe ReaderとFlash Playerになる」(小島氏)
PDFをリッチクライアント化するLiveCycle
PDFを単なる「書類のデジタル化技術」に終わらせず、電子文書ならではのさまざまなメリットを付加するために、アドビは「LiveCycle」と呼ばれるサーバ製品群を展開してきた。
例えば、文書の暗号化やパスワードによる内容の保護といった機能はデスクトップ向けのPDF作成ソフト(Acrobat)でも実現できるが、LiveCycleの各製品を導入することにより、電子帳票としての活用(Designer、Forms)、ワークフローへの展開(Workflow)、電子署名やタイムスタンプの付加(Document Security)、さらにはポリシーベースのダイナミックなアクセス制御(Policy Manager)なども可能になる。また、4月上旬に提供が開始される「LiveCycle PDF Generator For Postscript」は、サーバ側でPostscriptデータをPDFへ変換するサーバソフトウェアだ。この製品の登場によって、PDFの生成から始まる一連のソリューションを統一されたJ2EEの実行環境上で構築可能になる。しかし、どのような形のPDFソリューションであっても、クライアント側に用意しておくのは、Adobe Readerだけでよい。
サーバベースで構築するさまざまなソリューションによって、PDFをリッチクライアント化するのがLiveCycle製品群というわけだ。