Ajaxに対抗意識を燃やすFlashアプリケーション
電子文書や電子帳票といったPDFベースの「静的」なコンテンツに関する多様なソリューションを提供するのがLiveCycleであるとするなら、インターネット上で「動的」なコンテンツ、アプリケーションを提供するのが、新たにアドビの製品となった、Flash、Flexといった製品である。
小島氏は、「Flashアプリケーションに関しては、現在、過渡期にあると考えている」という。Flashはもともと、ウェブベースでのベクトルアニメーションの作成、閲覧ツールとして世に出たという経緯がある。バージョンアップに伴って、単なるアニメーションだけではなく、より高度なアプリケーションを作成するための機能も多数追加されてきたが、そのプログラミングモデルは独自色の強いもので、いわゆる「開発者」と呼ばれる人々にはなじみの薄いものだった。
クリエイターから開発者へと、Flashアプリケーション開発の門戸を広げるために、旧マクロメディアが用意したサーバ製品が「Flex」である。Flexを利用すると、従来のようなオーサリングツール(Flash)を使わずとも、XMLベースの「MXML」と呼ばれる言語でFlashアプリケーションのユーザーインターフェースが記述できるようになる。また、バックエンドのさまざまなシステムとの連携も可能となる。
さらに、2006年夏にリリース予定の「Adobe Flex 2.0」では、Eclipseフレームワーク上に構築された統合開発環境である「Flex Builder 2」が提供される。また、現状のFlexと異なり、開発環境だけを入手可能なライセンス形態も用意される。Flex Builder 2と、無償で入手可能なSDKである「Flex Framework 2」を組み合わせて利用することにより、開発環境単独でもFlashアプリケーションの作成が可能になると言う。
開発環境の機能強化と提供形態の変化に合わせて、Flexサーバの役割も変化する。Flex 2.0のサーバ環境は「Flex Enterprise Services 2」という名称で提供される。MXMLをコンパイルしてSWF(Flashファイル)を生成するという従来の機能に加え、複数のユーザー画面を同期させるプッシュ機能をはじめとして、データ更新、シンクロをより少ない開発工数で実現するためのデータサービスなどが新たに提供されるという。
Flex 2.0では、開発環境とサーバを明確に切り分けて、それぞれに機能強化を行うことで、開発者にとってさらに親しみやすいFlashアプリケーションの開発フレームワークを提供できるようになる。こうした方向性には、近年特に知名度の高い「Ajax」への対抗としての意識もあると小島氏は言う。
「現状で、Flexの実現するRIAに最も近いことを行えるのがAjaxかもしれない。しかし、Flexでは開発生産性の高いツールをサポート込みでデベロッパーに提供できる点が決定的に異なってくる。さらに、Ajaxと同等以上のエクスペリエンスを提供できる実行環境が、すでに広く配布済みであるというのもアドビの強みだ。アニメーションを作る人にはFlashを、アプリケーションを作る人には、デザイナー、開発者を問わず、ぜひFlexを利用してほしい。リッチなウェブアプリケーションの開発にあたって、デザイナーと開発者がスムーズに協業するための共通のツールがFlex Builder 2になる」(小島氏)
静的なドキュメントを扱うPDFと、動的なアプリケーションを配信するFlashテクノロジーの完全な融合には、まだ時間がかかりそうだが、アドビでは、PDF内部にインタラクティブに操作可能な3Dオブジェクトを埋め込める「Acrobat 3D」という製品をすでにリリースしており、その端緒は現れつつある。PDFとFlashのスマートな融合を目指しながら、当面は両技術の組み合わせにより、適材適所でリッチクライアントに求められるニーズを満たしていくというのがアドビの戦略となりそうだ。