日本HP、障害を持つ社員の社会進出を支える「シードセンター」の終了式を開催

山下竜大(編集部)

2006-03-15 20:10

 日本ヒューレット・パッカード(日本HP)は3月15日、障害を持つ社員のための研修の場である「シードセンター」に所属する社員5名による成果の発表会を開催した。シードセンターの「シード」は、英語で「種」を表す「SEED」に由来する。「自らの意思と力で芽を出し、花を咲かせようとするシード(種)達を支援する」ことを目的に、2001年に設立されている。

 日本HPは、社会への参加を望む数多くの障害を持つ人たちが企業などで実際に就労できる割合が十分とはいえない状況であること、景気が停滞する現在のような状況では障害を持つ人たちの幅広い社会進出が難しいこと、などの状況において日本HPとして何ができるかを考えた答えのひとつとしてシードセンターを設立した。

 現在、シードセンターでは、2005年4月に入社した第5期社員7名が日々研修、業務に励んでいるが、3月末日で契約期間を満了し、新たな一歩を踏み出すにあたり、各自が1年間の成果と成長を発表。発表会では、同日事情により参加できなかった2名を除く5名が、それぞれの言葉で1年間を振り返った。

 まず最初に登場した笹本満芳氏は、「社会人としての成長と反省」と題したプレゼンテーションで、プロジェクトのリーダーとしての経験と効果的なドキュメント作成のノウハウについて発表。リーダーとしていかにプロジェクト全体を把握するか、いかにチームワークよく効率的に仕事を進めるか、いかにメンバーに目標を立てさせ、向上心を持たせるかについて紹介した。

 シードセンターでの経験について笹本氏は、「人をリードする難しさを知った。この経験を実際の業務で最大限に生かせるように今後も努力していきたい。リーダーとしてメンバー1人ひとりの能力を最大限に発揮させるためにはどうすればいいか、時間をより有効に使うにはどうすればよいかが今後の課題だ」と話している。

 次に登場した村主崇氏は、「SEEDで学んだ1年」と題したプレゼンテーションで、「効率的に業務を遂行するための手順とはいかなるものなのか、“ほう・れん・そう(報告、連絡、相談)”がいかに重要かを学ぶことができた」と話している。特に成長した点として、「学生から社会人への自己意識を変革できたこと」を挙げている。「今後は、SEEDで学んだことを社会で実践し、より成長していきたい」と話している。

 また3番目に登場した内田知宏氏は、「2年間の成長と感謝」と題したプレゼンテーションで、シードセンターにおける2年間の心の葛藤を紹介した。シードセンターに入社する前は、仕事をした経験が無かった内田氏は、1年目でPCのスキルを身につけ、チームによる仕事もできるようになったことから仕事に対する自身を深めていった。

 しかし「ある仕事でのミスを指摘されたことから自身を喪失してしまった」と内田氏。さらに2年目を迎え、「もっと成長しなければ」という思いがプレッシャーとなって「完全にスランプに陥ってしまった」と話している。

 このスランプから脱出できたのは、大リーガーであるイチロー選手が書いた書籍の中で「うまくなるためには練習も必要だが、まず好きになること」という言葉を見つけたからだ。内田氏は、「この言葉で自分をもう一度見直すことができた。落ち着いてやればできると自分に言い聞かせることで、問題も一人で解決できるようになり、楽しくなった」と話している。

 「2年目は多くの人に助けられたことで自身を取り戻し、大きく成長できた。自己採点としては80点!」と内田氏。ただし反省することも忘れず、「今後は、コミュニケーションとスケジューリングの能力を学んでいきたい」と話している。

 さらに4番目に登場した杉山彰浩氏は、「3つの決意表明振り返り」と題したプレゼンテーションで、「(1)実務で通用するPCスキルの取得」「(2)確実な仕事の実現」「(3)コミュニケーションスキルの向上」という3つの決意について振り返った。

 杉山氏は、担当したホームページで行われたアンケートの集計業務において大量のデータを効率的に集計し、Microsoft ExcelやPowerPointを使って分かりやすくドキュメント化するノウハウを取得。シードセンターで実施している表彰制度の「業務賞」を受賞した。同氏は、「この業務で正しい仕事のやり方を理解し、HPに対する新たな提案もすることができた。決意の(1)と(2)は達成できた」と話している。

 また、次に担当した業務では、シードセンターの実績や仕事の受注機会の拡大の必要性、そのためのSEED社員の能力向上をプレゼンテーションすることで、HPがこれまで海外企業にアウトソーシングしていた業務の一部をシードセンターに委託することを検討させることができたという。これにより同氏は、「シードセンター・アピール賞」を受賞している。

 「プレゼンテーション能力を身につけたことで、決意(3)も達成できた。今後は、(4)次に配属される部門の知識の習得、(5)英語力、(6)簿記や会計業務の能力について身につけたい」と新たな決意も発表した。

 そして最後に登場した小島真之氏は、「仕事の手順とコミュニケーション」と題したプレゼンテーションで、「どの企業でも通用するPCスキルの取得」「社会人としての基本的マナーの取得」「自信の持てる能力を身につける」という3つの決意について発表した。

 シードセンターで小島氏は、まずスケジュールの厳守という壁にぶつかったという。「スケジュール通りに作業を行うことができず、後の作業にも影響するようになった。そこで、何が問題なのかを再考し、“行動せずに考えすぎていたこと”“ひとつの作業をダラダラ続けること”などを反省した」という。

 「解決策としては、より現実的なスケジュールを考えること、1人でできないことは誰かにすぐに相談すること。ほう・れん・そうが重要になる」(小島氏)

 こうした取り組みにより小島氏は、作業の切り替えが早くなり、仕事にメリハリができるようになったほか、複数の作業を同時進行できるスキルを身につけた。また、チームや個人に関わらず、スケジュールを調整しながらプロジェクトを管理できる能力も取得している。

 小島氏は、「仕事はチームで行うもの。個人の仕事であってもそれは、会社というチームに属して行っている。つまり、積極的なコミュニケーションが重要になる。人の意見を聞くことで、新たな方法が見つかることもあるし、仕事のスピードも向上できる」と話している。

 日本HPの執行役員 人事統括本部長である山田貫司氏は、「日本HPでは、会社創業理念である“HP Way”の考え方に基づき障害を持つ人たちの雇用を推進している。社員の就業環境では、障害によるハンディを無くし、健常者との機会を均等することで公正な就業環境を実現したいと考えている」と言う。

 また、シードセンター長の上田辰雄氏は、「シードセンターの取り組みは、着実に根付いており2005年の社内業務も32件になった。これは、毎年5件ずつ増えている計算になる。2006年からは、研修期間が1年から2年に拡大されるほか、専任の担当者を1名増員し、スタッフ研修も充実させていく」と話している。

 シードセンターの6期目となる2006年は、これまでに習得した各種スキルや知識を定着させるほか、より安心、安定したセンターの運用、日本HPとしての継続的な雇用促進を目指している。

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