まずは区画整理から
できたばかりのディスクは何も書かれていない。ただの平たい円盤である。磁気記録を行うための磁気媒体(超微細な鉄粉)でコーティングされているだけだ。これは未開拓の大地と同じである。仮に、未開拓の大地に移り住んだと想像してみよう。誰かが自分を訪ねて来ようにも、住所が特定できないことには会うことができない。また、道路がないとどこを歩いているのかさえも判らない。この未開拓の大地を測量して道路を作り、番地を割り当てることで、初めて目的地にたどり着けることになる。つまり区画整理が必要なのだ。
ディスクの場合もまったく同じことが言える。何の印もないディスクでまず行われること、それが区画整理なのだ。ディスクの区画整理といってもピンと来ないと思うが、フォーマットと言えば聞いたことがあるのではないか。
発想はバームクーヘン
ディスクの区画整理作業を理解するにあたって、お菓子のバームクーヘンを思い起こしてほしい。同心円状の生地を何枚も重ねて焼かれた洋菓子だ。バームクーヘンを8つに切ったとしよう。そしてそれぞれのカットに番号をつけたとする。この瞬間、バームクーヘンの茶色い焼き目の層が特定できることになる。つまり、カット5番の外側から10層目といった具合に指定すればよいのだ。これで「バームクーヘンの区画整理、完了です」というわけだ。
バームクーヘンの層は筒状になっているが、ディスクの場合もこの茶色い筒型の層があり、その層をシリンダーと呼ぶ。ディスクの場合、実際にナイフで切るかわりに、円周上に磁気ヘッドを使って印を書き込んでいく。こうして切込みが入った茶色い層の1つをセクターと呼ぶ。1つの円周を8等分した場合、8個のセクターができることになる。このバームクーヘンを皿に盛ったとすると、1切れのバームクーヘンに上下があるように、ディスクにも上下があって、それぞれ別々の読み書き用磁気ヘッドで読み書きをする。ディスクの区画整理であるフォーマットとは、何も記録されていない磁気ディスクに、シリンダー番号、セクター番号、ヘッド番号といった番地情報を記録していくという意味なのだ。あとはその番地情報をつかって目的の場所にピョンと飛べばよい。
サラサラ生活
バームクーヘンの各カットに記録する情報量が同じならば、より細かく切ったほうが多くの情報が書き込める。若い頃、私は2トラ38というオープンリールデッキが憧れであった。38とはテープスピードが秒速38cmという意味で、速くテープを回せば音をテープ上にゆったりと記録できるため、音の歪が少ないというものだった。
磁気記録方式を利用するディスクにも同じことが言える。詰め込み過ぎは歪を生む。コンピュータの世界でこれはデータ化けにつながってしまう。今では各種高度なデータの補正・訂正技術によってこれに対応している。進化したさまざまな超高密度対応技術がディスクの一発再生を支えているが、基本はもちろんディスクの区画整理だ。
さてさて、我が家もそろそろビデオデッキをハードディスクレコーダーに変え、私も握り締めたリモコンを持つ手の汗から開放されて、手のひらサラサラ生活を楽しみたいものである。
第4回筆者紹介バームクーヘンの切り方
藤原 忍(ふじはら しのぶ)
日本IBM 大和システム開発研究所
テープシステムズ開発 ソフトウェア開発エンジニア
テクニカルマスター、ストレージソフトウェア
職務:テープシステムズ・管理ソフトウエア・開発チームリード
一言:私がストレージの世界に入った1984年は、パソコンのストレージといえばフロッピーの時代で、20Mバイトほどのハードディスクが一部のオフコンなどに使われている程度でした。現在はその頃に比べて、ハードディスクの外形寸法も容量も飛躍的に進歩し、とても身近なものとなりました。しかし、基本的な原理は昔と同じです。なぜ膨大なデータの中から必要なデータをパパっと読み出せるのか。ストレージが身近になった分、皆さんにも知っていただきたくてこのテーマを選びました。