SaaSモデルの展望と将来性
鍛冶氏に続き、ステージに登場したのは、アイ・ティー・アール(ITR)代表取締役/シニアアナリストの内山悟志氏。同氏は、「SaaSモデルとオンデマンドサービスの展望」をテーマに、SaaSの現状におけるライセンス課金の課題やSaaSの可能性、将来展望などについて講演した。
内山氏はまず、講演の論点について、次のように話した。
- SaaSモデルがソフトウェア市場に影響を及ぼしている要素は何か
- SaaSは、ソフトウェア課金および調達方式にどのような影響をもたらすのか
- ユーザー企業は、今後のシステム構築とSaaSモデルに対してどのように取り組みべきか
Forrester Researchが2005年11月に行った北米におけるSaaSモデルの浸透状況の調査では、すでに利用している企業が25%、1年以内に導入が5%となっている。逆に興味がないと答えた企業は44%という。一方、ITRが2006年9月に行った国内のSaaS(ASP)利用状況の調査では、すでに利用している企業が約23%で、1年以内に導入が約6%、未検討が約50%となっている。
内山氏は、「SaaSモデルの利用状況は、米国も日本もそれほど大きな違いはない。ただし、興味がない、未検討と答えた企業が日米共に約50%になっているのがポイントだ」と話している。
しかし未検討と答えた企業でも、「現在のソフトウェアライセンス体系については多くの不満を持っている」と内山氏。企業がライセンス体系に抱いている不満は、たとえば、「ライセンス体系が複雑で分かりにくい」「ソフトウェアを使う限りライセンス体系の変更を受け入れざるを得ない」「価格の納得度が低い」「保守料に見合ったサービスを受けられていない」などだ。
内山氏は、「現在、不透明と思われているライセンス価格や保守料なども、SaaSモデルの従量制課金に移行することで明確にすることができる」と話している。
そのほかSaaSモデルのメリットとしては、「短期間での導入が可能」「初期投資の負担が軽減できる」「開発/保守コストが軽減できる」「稼働プラットフォームを問わない」など。一方、デメリットとしては、「希望するカスタマイズのすべてを反映できない」「アプリケーションの所有権の放棄」「厳密なサービスレベルの定義」などだ。
これに対し、パッケージ製品のメリットは、「提供機能が充実している」「業種特性に配慮した機能が提供される」「所有権が保持されるのでカスタマイズが自由」など。デメリットは、「価格体系が硬直的」「初期導入コストの負担が大きい」「システム環境が限定される可能性がある」「導入やバージョンアップの作業負荷が大きい」など。
内山氏は、「SaaSモデルのメリットは、パッケージ製品のデメリットで、パッケージ製品のメリットは、SaaSモデルのデメリットということができる。どちらを選ぶかは、導入する業務しだい」と言う。Forrester Researchの調査では、SaaSモデルの検討で重視するのは「可用性と信頼性」「短期間での導入/展開」「柔軟な調達」と報告されている。
結論として内山氏は、現在のSaaSモデルは、既存のライセンス体系の欠点を克服しているわけではないこと、SaaSモデルは中堅・中小規模の企業はもちろん、大企業にも効果があること、SaaSモデルでの調達が適している分野とパッケージ製品が適している分野を見極めること、SaaSモデルで提供されるソフトウェアサービスは、SOA(サービス指向アーキテクチャ)によるシステム構築の構成要素になることなどを挙げた。