万川集海 第13回:タンスをレジまで運べますか--階層型ストレージ管理のお話 - (page 2)

牧野貴志(日本IBM)

2007-04-12 08:00

 HSMは、幾通りかの実装形態が存在するが、一番多く実装される方法はHSMソフトウェアを利用する方法だ。ファイルの使用頻度によって、古いものはファイル本体を安価なストレージ装置に移動させるというものである。移動されたファイルにアクセスする場合、HSMが「列 棚」の情報を元に実際の配置場所を探し出す。ファイルの先頭部分のみを残し安価なストレージに移動することで、ファイル先頭部分で完結する処理は高性能ディスク装置内で処理しつつ、貴重な容量を節約する方法もある。HSMソフトウェアは高価なものが多いため、一般的には複数のファイルを一元管理するファイルサーバと呼ばれるマシンにHSMソフトウェアを導入して利用する。

お声がかりの数が全てを決める

 ITの世界の人間としては残念でならないのだが、実世界での家具店のスペース活用方法とITのHSMとで大きく異なる点は、多くの場合ITシステムにおける保管先の分類はただ1つの指標のみで決まってしまうことにある。それは「コストパフォーマンス」(費用対効果)である。高価な高性能装置と安価な低性能装置、分類は主にこのレベルで終わってしまう。

 そして、保管対象の分類も多くの場合1つの指標のみで決まってしまう傾向にある。それは「使用頻度」だ。使用頻度の高いファイルは高性能装置へ保管し、使用頻度が下がると低性能装置に移動しましょうという具合だ。つまり、お声がかりの数がすべてをきめるのである。

 前述の家具店の例に戻ると、2階の展示スペースには大型のショッピングカートと段ボールは置かず、客が好きな家具を選ぶという行為に特化された空間として仕上がっている。限られた店舗スペースをとても効率的に活用している点でコストパフォーマンスも申し分ない。段ボールの山がない開放された空間に家具をかざることで、この家具店の展示スペースには泥臭い生活感が抜き取られている。家具の演出という付加価値を提供することにより、客の購買意欲を上げる意図も含まれているのだろう。

データの価値を基準に置けば

 ITシステム上においても、コストパフォーマンスのみにフォーカスするのではなく、データの価値を見極め、その価値に見合った場所に保管しようという考えに移りつつある。付加価値として、アクセスの制限、改ざんの防止、削除できない期間、長期保管に適したストレージ装置などを利用しようという動きがあるのだ。しかし、技術を理解してから実装しないとうまくいかないこともあるので、家具店のように整然と管理できるようになるにはまだまだ時間がかかりそうだ。そう、ITの世界はいつでも時間のじゅうたんに乗って実世界を追いかけているのだ。これがホントの「タイムラグ」。

タンスをレジまで運べますか - 牧野 貴志
第10回筆者紹介タンスをレジまで運べますか

牧野 貴志 (まきの たかし)
日本IBM システムストレージ ATS ITスペシャリスト
職務:情報のバックアップ、アーカイブ製品の先進技術サポート
一言:2000年入社以来、当部門にて様々な先進技術と戯れさせていただきました。発売当初は聞こえが良くて落とし穴満載の技術も多数ありましたが、もっぱら成熟してきたILM(Information Lifecycle Management)関連の仕事が最近は増えています。今回は身近にある「階層」を例に、ストレージの階層管理を紹介したいと思います。組織の中では最下層のレイヤー(?)をカバーする私が汗水垂らして得た経験を楽しく読んで頂ければ嬉しい限りです。

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