万川集海 第14回:井戸と水道--ストレージ統合のお話 - (page 2)

東山雄一(日本IBM)

2007-04-19 08:00

 さらにアプリケーションソフトに至っては、仮に市販のパッケージソフトを使っていても、バージョンの違いを考慮しなくてはならず、そもそも専用のプログラムを作っていたとすれば、最初から作り直しが必要だ。そう、実はサーバの統合は意外と大変なのだ。

 そこで、視点をディスクのようなストレージ装置に向けてみるとどうだろうか。技術革新の結果、いまやストレージは大容量化しただけでなく、サーバに単独で接続されていたものを皆で共有して使えるようになっているのだ。

 こうした技術革新が起こったのは、実は21世紀になるかならないかという最近のことだ。何でもまとめてしまえば、良いものが手に入りやすい。費用も皆で共有すればよいため、高性能な部品を使った製品が選択できるのに加え、内部回路が二重化された製品を入手することもできる。つまり、まとめることでトラブルに強いストレージシステムを手に入れることができるのだ。まとめ買いの効果も出るため、思ったより安上がりとなることもある。

 このように、サーバはたくさんあっても、ストレージは1〜2台の環境にすると経済的だ。これはストレージ統合と呼ばれている手法である。

光とともに

 どうしてこのような使い方ができるようになったのか。一昔前なら、SCSIと呼ばれる規格でストレージを接続していた。これは銅線を使うこともあって、長くても25mまでしかケーブルを伸ばすことができない。したがって、この手法で無理やりストレージを統合すると、ストレージ装置を中心として円形にサーバを配置していくことになる。これはさながら古代遺跡のストーンサークルのようでこっけいだ。

 時は流れ、技術の進歩とともに、ファイバーチャネル(FC)と呼ばれる接続方法が使えるようになった。FCでは銅線だけでなく、光ファイバーケーブルが利用でき、接続距離は最大10kmまで延長できる。これなら、ちょっとした工場やオフィスの敷地内はもちろん、世界最高の高さを誇るビルの中でも十分だろう。

 接続距離が延長できるということは、ストレージの置き場所をサーバが意識しなくて済むということである。一般家庭の水道だと経路が1本なので、家の近くの配管が壊れたらきっと断水してしまうが、こちらはケーブルを複数用意すれば、どの経路を使ってもデータにアクセスできるので、少々の地震や事故にも耐えられる。予算が許せば、万が一のためにもう1台ストレージを用意し、ストレージの機能で互いにデータ持っておくようにするのも良いだろう。サーバ人口が増えたら、水源を増やすかのように、ディスク容量が少なくなった分だけリソースを追加すればよい。いつの日かストレージは水道や電気と同じく、置き場所や装置そのものを意識することなしに使える社会的インフラとなっていくかもしれない。

 ところで、私の実家が水道にしないのは、私が思う限りどうやら面倒なだけのようだ。複数のサーバをお使いなら、面倒がらずにストレージ統合に向けて一歩を踏み出してみてはどうだろうか。小さな山村や離島でも今では水道が使えるところは沢山あるのだから。

井戸と水道 - 東山 雄一
第10回筆者紹介井戸と水道

東山 雄一 (ひがしやま ゆういち)
日本IBM 大和システム開発研究所 サーバ&ストレジ製品技術 第二ストレジ製品技術 主任開発技術担当部員
職務:ディスクストレージ製品の製品技術(ハードウェアレベル3サポート)
一言:私は入社して約10年になりますが、弊社がファイバーチャネルのディスクストレージを販売開始したのはその翌年でした。当時のストレージ製品は複数のサーバに接続することはできませんでしたが、そのころに夢のような話として語られてきたことが、今現実の世界で実現され、発展しつつあるのがこの世界の面白いところです。なお、ハードウェアと一言でまとめていますが、昨今のディスクストレージではさまざまな機能を実現すべく、内部で巨大なプログラムが動いています。私はこのハード、ソフトをシステムとしてとらえた技術的なサポートをしています。

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ZDNET Japan クイックポール

注目している大規模言語モデル(LLM)を教えてください

NEWSLETTERS

エンタープライズ・コンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]