中央こそ積極的にオープンな技術を--IPA第2回OSS導入実証報告(2) - (page 2)

萩原弘明

2007-05-12 02:04

二宮町はベンダー依存体質脱却へ

 栃木県二宮町は、県の南東部、茨城県と境を接する人口1万6000人ほどの町だ。同町では2005年度から実証実験に参加している。2006年度は周辺5市町(真岡市、市貝町、益子町、茂木町、芳賀町、6自治体合計の人口は約15万人)と芳賀広域組合からも参加を得て、約150人の職員がデスクトップOSSの可能性を探った。

 自治体の現状は、やはりWindowsならびにMS Officeに依存した体質にあることが否めない。しかしながら、これは常にバージョンアップを迫られることにつながり、そこでは膨大なコストがかかる。こうした体質からの脱却のために同町では、OSSデスクトップ環境に取り組んでいる。Linux PC上で、OpenOffice.orgを利用しようというものである。

 2006年度は、データ互換の課題に重点が置かれた。まずはExcelのVBマクロにおける互換性の課題があった。中央省庁や周辺市町、団体から送られてくるExcel文書にはVBマクロが含まれているという。全38種類のマクロのうち、OpenOffice.orgのOpenBasicに変換できなかったものが6種類あったという。これらを洗い出し、同町ではすでに開発コミュニティに対して対応を求めたという。

 第二に、外部組織のMS Office文書との互換性が課題であった。Windows環境にある外部組織との文書交換の際には、OpenOffice.orgのODF文書と、MS Office文書との間で変換が必要だが、その際に書式が崩れ、修正するのに時間がかかって業務効率に大きな影響を与えているという。現在では不具合を洗い出し、変換手順書を作成している。また緊急を要する業務のためにWindows PCも残してある。また、MS Officeは外部のファイル形式を「取り込む」ためのコンバータは豊富であるが、「書き出す」コンバータはほとんどないという。このため、同町では、広域連携基盤用のサーバに、ODFをMS Office形式に変換するためのコンバート機能を組み込んだ。職員によれば「変換が楽になった」「変換精度が向上すれば利用者も増える」とおおむね好評である。

 また、職員の情報リテラシー格差の解消やスキル向上も課題となった。これはグループ分けした職員に順次研修を実施することにより実現を図った。この結果、二宮町の職員はほとんどの操作を一人でできるレベルに、他の市町村も昨年度の二宮町レベルにまで向上したとのことだ。

 最後は、広域的なOSSの普及推進である。今回参加した二宮町以外の5市町1組織の中であれば問題ないが、その他の自治体や組織に対してODF文書をそのままメールに添付してしまうという事例があったという。これもコンバータの開発で解決した。これに加えて、今回参加した市町のなかにはシステムの保守を地元のIT企業に任せているところがあった。この実証実験で二宮町のパートナーとして参加したNECの大木一浩氏は、「地元IT企業とパートナーシップを組むことで、スキルアップにも効果があった」と、プラスの効果を生んでいる点を指摘する。

 2006年度の実証実験を終えた山形県、栃木県二宮町からはある共通の知見が聞かれた。それは中央省庁や都道府県に対する要望であった。どちらも「中央省庁の調査・報告依頼書は、ほとんどが特定のソフトウェアに依存している」とする。そのソフトウェアにバグやセキュリティ上の欠陥があった場合に、文書を受け取る自治体側では、想定被害を未然に防止できないのだ。だからこそ、中央省庁こそが率先してオープンな技術、オープンなフォーマットを導入することが望まれており、それこそが最大の課題でもあるという。

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