「従来からのシトリックスとの協業による画面転送型、文教市場で実績のあったネットブート型、そして仮想化技術を取り入れた仮想PC型という3つのシンクライアントを体系化したのです。そして、全社のクライアント統合ソリューションとして改めて位置づけたわけです」(平氏)
そのとき同時に、NECはシンクライアントの問題点が2つあると指摘した。
ひとつはシンクライアントにおける「マルチメディア」対応の弱さである。近年、ビジネスの場でも「動画」が利用されるケースは多いが、処理能力をサーバに依存し、その画面だけを受け取るタイプのシンクライアントでは、コマ落ちが激しく、ほとんど使い物にならなかった。そしてビジネスツールとしての普及が進むソフトフォン、つまりVoIPは、そもそも旧来のシンクライアントの仕組みでは使えなかったという。
もうひとつの問題点は、シンクライアントシステム全体のイニシャルコストの高さである。クライアント端末自体はPCより安くても、ミドルウェアやサーバのコストを加えると、イニシャルコストは大幅に向上する。デスクトップPC1台が10万円前後だとすれば、シンクライアントでは、1台あたり30万円ほどのイニシャルコストがかかってしまうというのが同社の試算だった。
NECは、この2つの問題を解決する必要があると、あえてマーケットにアピールしたのである。
そうした問題を解決した“新仮想PC型”として、NECは2006年11月に「VersaProシンクライアントUS50」や懸案のシステムLSI「NetClient」を搭載した小型・箱形の「US100」を発表する。そのための布石が、この2005年4月のクライアント統合ソリューションの発表だったということである。つまり、現在のNECのシンクライアントの裏には、用意周到に練られた戦略があったというわけだ。
狙うは「ビジネスPC市場」
「新しい仮想PC型シンクライアントが狙っているのは一番のボリュームゾーンであるビジネスPC市場です。ネットブートや画面転送型では、動かないアプリケーションが出てきてしまうので、どうしても用途が限られます」
平氏がこう指摘するように、NECのシンクライアント戦略を特徴づける3方式のうち、最もボリュームのあるビジネスPC市場をターゲットにしたのがこの仮想PC型シンクライアントである。
「ITインフラを考えたとき、サーバはデータセンターに統合しても、端末だけがあちこちにばらまかれているという状況が残ります。そこでクライアントも統合したいとなるのですが、その方法もいろいろです。ビジネス用途を見ると、企業の中ではPCのリソースを使用する時間や時期のピークが重ならない人がたくさんいます。その人たちすべてに、CPUやメモリが大量に詰め込まれたPCが配布されている状況は使用率からいっても無駄が多いのです。そこがクライアント統合のポイントになると思います」(平氏)
ここに登場するのが仮想化技術だ。仮想化によってシステムリソースを束ね、有効活用するという考え方は、クライアントPCの環境にも応用ができる。同時に、シンクライアントの本来の特徴から、情報の漏えいも防げる。
情報セキュリティに関する議論は、シンクライアントが市場で改めて脚光を浴びる大きな要因になったが、NECの場合はそれを仮想PC型シンクライアントで解決しようと考えた。そして、そのソリューションをボリュームマーケットに普及させるには、マルチメディア機能を強化するべきであるというのがNECの考えであり、特徴になっている。
「3年がかりで作ったシステムLSI“NetClient”を搭載し、同時にサーバ側にも手を入れ、仮想PC型にフォーカスしたリニューアル発表を行いました。新仮想PC型クライアントという位置づけです」(平氏)