全体最適化への基盤整備
大分県は「共通基盤システムの整備」というインフラ整備で実証実験に参加した。今回の実験では職員認証、ファイル管理、電子決裁の3システムを構築し、本格稼動に備える。
大分県のIT事情は他の自治体同様、メインフレームとサーバのはんらんからの脱却が課題だ。1972年にメインフレームを導入した同県は人事給与、財務会計、税務など45本の基幹業務システムをこの上で稼働している。一方、1985年ごろからは、その他の非定型業務のためにサーバを導入しはじめ、現在では173システムが稼動する。管理部署についても、前者はIT推進課、後者は業務を行う各課(原課)である。
このため、システムのブラックボックス化、ドキュメント整備の不統一、関連業務間でのデータの有効利用不足、マスタなどの重複といった課題が顕在化してきた。大分県IT推進課の安部弘氏は「個々のシステムとしては役立っているし、最適化ができている。しかしこれからはシステム全体の最適化をしていこうという段階」だという。こうした必要性に基づいて同県では共通基盤システムの整備に着手、今回の実験参加となった。
実際の開発はハイパーネットワーク社会研究所と同県のIT企業を中心に結成されたコンソーシアムが行った。同研究所の江原裕幸氏によると「膨大なシステムの要求仕様を見直すのに時間がかかり、開発期間が短かったが、Ruby on Railの開発メソッドに慣れてくると極めて効率的に開発できた」という。
これだけの規模のシステムとなると関係各者の情報共有が大きな課題になってくる。このため県庁では17回、コンソーシアムでは19回の定例ミーティング、県庁1023件、コンソーシアム1140件のメーリングリストなどで共有を行った。安部氏も「目的の共有や状況の相互理解の重要性が学べたのは今回の実証実験の大きな成果の一つ」と語っている。
システムの特徴としてはSambaとOpenLDAPの利用による「シングルサインオン」機能を採用した点がある。これによりクライアントのPCから一度認証を受ければ、業務アプリケーションを起動するとき、あるいは業務システムから電子決裁へ進む場合も再認証を省略できる。
文書管理システムでは分散ファイルシステム(DFS)を導入することで負荷分散し、「HyperEstraier」によってこれまで作成されてきた全県庁レベルの文書の全文検索機能を実現した。検索対象は、OpenOfficeを筆頭にMS Word、Excel、PowerPoint、一太郎、PDF、DocuWorks、HTMLなど多岐にわたるため、かなり大規模なシステムといえよう。
電子決裁は起案、承認、決裁について再提出、個別決裁、一括決裁、差し戻し、代理決裁など、過不足ない機能を実現している。
今回の実証実験を通じて阿部氏は新しいシステム作りのノウハウや効果的なIT投資のヒントを得られたことと並んで、民間企業との協業を通じて民間の活力を感じ取れたのが大きな収穫だと述べている。
このシステムは4月で総合テストを終了し、5月から本番環境に入る。そこでの安定稼動が安部氏の一番の願いである。そしてそれが確認されれば県内の市町村などにもOSSを推奨していくとのことである。