3つの技術の組み合せでメリットが増大する
前回説明したように、仮想化の3つの技術は単独で利用されるよりも、組み合わせて使われるほうが多い。もちろんこれは、組み合わせて利用したほうがメリットも大きくなるからだ。例えば、分身の技術を利用する際に、1台ごとに適用してもメリットはもちろんあるが、複数のサーバを一旦合体させあたかも大きなサーバリソースがあるように見せかけ、それをさらに分割すればリソースの有効利用はさらに高度化できる。
さらに変身の技術を組み合わせれば、高い可用性、あるいは自動的なリソースの追加といったITリソースのユーティリティ化の実現も可能だ。例えば、3つのリソースを合体させ、1つのアプリケーションから利用しいたとする。きちんとした変身技術が適用されていれば、パフォーマンスが足りなければアプリケーションに関係なくリソースを自動で追加したり、あるい1つのリソースに障害が発生し2つになってしまっても、アプリケーションを稼動し続けることができる。
仮想化の3つの技術を組み合わせることでリソースのプールが構築でき、そこから適宜分配して利用できるというのが仮想化の最大のメリットだ。とはいえ、一気にここのレベルまで到達するのは難しい。まずは、社内に散らばっているサーバやストレージなどのリソースを集約できないかを検討するといい。そこからどのように分割して再利用するかというステップを経て、最終的に動的なリソースプールに至る。ここまでできれば、仮想化技術のメリットが最大限に発揮できる。
仮想化にはデメリットもある
完成されたリソースプールができあがるならそれほど心配する必要はないが、段階を経て仮想化技術を導入する際には、さまざまなデメリットも発生する。
デメリットの多くは、システムに仮想化という新たな層が加わることに起因する。まずは、仮想化層が加わることで、仮想化の処理が必ず途中に入ることになり、性能が劣化する可能性がある。もちろん、仮想化技術が向上しているので、仮想化層が入っても性能劣化が少なくはなってはいる。とはいえ、現状では極めてシビアなトランザクション処理性能を求められるような場合には、仮想化を使わない方が得策かもしれない。
もう1つのデメリットは、管理の複雑化の懸念だ。変身技術を使えばハードウェアの変更などの際に管理の手間が削減できると説明したが、現実的には仮想化層という新たなレイヤの管理をしなければならない。ここ最近、各ベンダーはこの仮想化層の管理という新たな課題を、いかに簡便化、自動化できるかを競っている状態だ。仮想化のための管理ツールなどをうまく活用できないと、管理の手間が増えることがあるのも覚えておくべきだ。
さらに、仮想化でシステムを統合してしまったために、新たな苦労をすることもある。これは技術的というよりも、運用作業をスムーズに進めるための組織の体制の問題でもある。従来1つの物理的なサーバを1つのアプリケーションで利用していた際には、そのサーバのトラブルはそのアプリケーションにしか影響を与えなかった。これが仮想化により統合化されると、他のアプリケーションに影響を与える可能性もある。
また、システムのバックアップなどにも困ることがある。会計システムであれば、月次処理の繁忙期を避ければ処理を停止してフルバックアップを取ることができたが、複数のアプリケーションが仮想化で1台に統合されていると、それぞれのアプリケーションで繁忙期が異なり、いつ止めていいのかの判断が難しくなるのだ。さらにその判断も複数の部門に跨ってしまい、組織間の力関係がシステムのバックアップタイミングに影響することにもなるという。
こういった仮想化特有の運用面の課題を解決するために、インフラやネットワークの管理者とは別に、新たに仮想化環境専任の管理者を置いたという話も聞く。
今回は、総論的に仮想化のメリット、デメリットについて考えてみた。このほかにも、最近注目されつつあるハイパーバイザーのセキュリティ問題、さらには仮想環境で利用するOSやソフトウェアパッケージ製品のライセンスの問題など、仮想化環境に特有の課題も新たに浮上している。これらについては、別途スペースを割いて解説する予定だ。次回からは、個々の仮想化技術についてもう少し踏み込んでいきたいと思う。