ストレージの仮想化とは--仮想化技術をひも解く(3) - (page 2)

谷川耕一

2007-07-18 08:00

現状のストレージ仮想化は2度目のブーム

 「ストレージの仮想化は、2003年ころに一度ブームとなったが、技術標準が整備されていなかったことや、処理速度にボトルネックがあるのではとの不安があったこと、あるいは提供するベンダーごとに主張が異なっていたなどの理由から、結果的には普及しなかった」

 EMCジャパン エグゼクティブ・ブリーフィング・プログラム シニア・マネージャーの菊地宏臣氏は、数年前のストレージ仮想化のブームが普及に至らなかった経緯を説明する。当時も今も、ストレージで仮想化技術を採用する目的に変わりはない。さまざまなサーバやディスク装置がネットワークでつながれたカオス状態を抽象化することで、複雑性を隠蔽し、より効率的にストレージを活用したいというものだ。

 2003年当時は、ストレージの仮想化は技術的にもまだまだ成熟しておらず、異なるベンダーのストレージを1つに統合するにはハードルが高かったほか、性能的にボトルネックが発生することもあった。さらに、仮想化する手間やコストが得られる効果に見合うのか、そもそも何のためにストレージの仮想化を導入するかをユーザー自身がきちんと理解していなかったともいう。

 それが、2006年頃から技術的な進歩も著しくなると共に、複雑化する企業内のシステムにおいてストレージの仮想化がどうやら必要だという認識も広がってきたのだ。

 「ストレージの仮想化を導入することでパフォーマンスが落ちる、あるいは管理の方法が大きく変わるといったソリューションは、ここ数年で淘汰された。技術の進歩で、実環境への影響を最小限にし、仮想化の効果が実現できるようになった」(菊地氏)

仮想化で実現するストレージのサービス化

 「コンプライアンスや災害対策など複雑で高度化する要求に対し、柔軟かつ効率的にストレージを提供する、これをEMCではSaaSあるいはStaaS、つまり『Strage as a Service』と呼んでいる。この実現には、ストレージの仮想化が重要となる」

 EMCの菊地氏は、昨今のシステムに対する要求を効率的に満たそうとすると、ストレージの仮想化が必要になるという。例えば、企業内に複数のストレージが存在しても、通常すべてのストレージの使用率が高いわけではなく、一部のストレージだけが高い使用率で容量不足に悩むのが普通だ。このように偏りがある状態を仮想化で集約し、それを分割して適宜アプリケーションに再配布できれば、ストレージの使用率は平準化し、既存ストレージの有効活用が可能になる。

 また、更新や参照が頻繁にあるデータは高価でも速いストレージに、そうでないデータは遅くても安価なストレージに格納できれば、ストレージ全体のコスト効率が向上する。速いストレージも遅いストレージも仮想化で1つに集約できれば、データの要求に合わせて最適なストレージに動的にデータを配置できる。データ発生当初は速いストレージで利用し、後にはアーカイブデータとして低速のストレージに移動させる。この移行作業はデータ量が多ければかなり面倒な作業となり、当然ながらシステムを計画的に停止させて行うことになる。ストレージの仮想化技術を使えば、この手間のかかるストレージ間の移行作業を動的に実現でき、自動化することも可能だ。

 さらに一歩進んだソリューションを提供するベンダーも登場してきた。iSCSIに注力しているストレージベンダのイコールロジックは、搭載している物理的なハードディスクの容量を超えた割り当てができるストレージ管理の仕組みを提供している。あるシステムが必要なディスク容量は、運用数年後を目処に試算される。データは時間経過と共に増加するので、当然ながら導入当初はディスクにかなりの余裕ができる。イコールロジックのソリューションでは、実際の容量が足りなくてもあらかじめ数年後に必要となるサイズを当初から割り当てておき、本当に必要となった際に適宜物理的なハードディスクを追加できるのだ。初期コストを抑えられるのはもちろん、必要な時に最新のディスク装置を調達できるメリットもある。

ストレージだけでは存在できない

 コンプライアンスへの対応、バックアップや災害対策など、いまやストレージに対する要求は単なるデータの入れ物では済まされない。これまでは、大量データを信頼性高くいかに高速に処理できるかが重要だった。これらの要求にはもちろん応えた上で、システムの変化に柔軟に追従し、それをコスト的にも物理スペース的にも効率化することがストレージには求められている。また、管理に複雑性があってはならないのだ。

 これらを解決するのがストレージの仮想化だ。ただし、ストレージはそれ単独で存在しない。サーバが常に存在し、そのサーバにおいても仮想化による柔軟性、効率の向上の動きが加速している。ストレージの仮想化を考える際には、将来的にはサーバの仮想化も視野に入れ、それに対応できるストレージの仕組みなのかを考慮し、システム全体の仮想化を視野に入れる必要がありそうだ。

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