Xenはエンジン、XenSourceは自動車
Xenは、英国ケンブリッジ大学で2001年に始まった学術プロジェクトの成果として、オープンソースで公開されている仮想化ソフトウェアだが、皆さんはXenSourceの存在をご存じだろうか。XenSourceとは、2005年にXen技術の開発者によって設立された企業体である(※)。
XenとXenSourceの関係は、LinuxカーネルとLinuxディストリビューターの関係に似ている。つまり、XenSourceはオープンソースのXenというエンジンの上で、Windowsをきちんと動かすことやクラスタリングなどの高い可用性を実現するなどといったエンタープライズ環境での利用を目的に、商用の仮想化ソフトウェア製品を提供しているのだ。
Linuxのディストリビューションは、オープンソースのLinuxカーネルにさまざまなソフトウェア群を組み合わせ1つのOS環境として提供されている。XenSourceの場合は、Xenというエンジンに管理ツールやインストールツールを加え、「XenEnterprise」という商用パッケージを提供しているのだ。「Xenは自動車そのものではなくエンジンであり、XenSourceにより商品化されてはじめて、ユーザーに価値がある自動車に生まれ変わる」と、前出のLevine氏は説明する。
8月13日に発表された最新の「XenEnterprise v4」では、ゲストの仮想マシンを稼働状態のまま仮想サーバ間を移動できる「XenMotion」という機能を新たに提供している。これは、VMwareの「VMotion」機能に相当するものだ。また、ハイパーバイザーが64ビットに対応したことにより、ゲスト環境においても32ビットと64ビットの双方をサポートし、ゲストOSは32Gバイトの広大なメモリ空間が利用できるようになる。さらに、CPUやストレージのリソースプール機能や、統合的な仮想環境管理ツールである「XenCenter」など、ハイエンド向けの機能が多数提供されている。
「商用の製品として、VMwareとの間にはまだ若干ギャップもある。しかし、現状でXenEnterpriseは500社以上の顧客を獲得している。2007年後半から2008年にかけては、さらに高可用性を実現するフェイルオーバー機能やマルチノードサポートなども提供していく」とLevine氏が言うように、VMware Infrastructure 3がターゲットとしているよりハイエンドな要求に対応する機能が、XenEnterpriseに続々と追加されるとのことだ。
ちなみにXenSourceでは、無償で利用できるXenExpressというパッケージも提供している。XenExpressは、デュアルソケット、4Gバイトまでのメモリといった制限があるものの、XenSourceがXenに加えた便利な機能を利用してみたければ、こちらを試してみるといいだろう。
XenEnterpriseの商用の要求がXenを成長させる
XenSourceの設立者で、XenのプロジェクトリーダーでもあるIan Pratt氏は、XenSourceの商用利用での要求が、Xenの今後のロードマップを牽引すると言う。
「Xenのオープンソースプロジェクトは、最高のハイパーバイザーを生み出すことを目的に活動している。IBMやHewlett-Packard、Intel、AMDなど多くのハードウェアベンダーもXenの開発に関わっているため、ハードウェアが新たに開発されると必要なコードがプロジェクトに提出され、素早くオープンソースに取り込まれている。また、米航空宇宙局(NASA)ではXenのセキュリティを高めるための作業を行っている。Microsoftは自社の仮想化ソリューションのなかで、(オープンソースの)Xenの技術を準仮想化の実現に利用している」(Pratt氏)
このようにXenというオープンソースのプロジェクトに多くのハードウェアおよびソフトウェアベンダーが積極的に関わっているというのも、Linuxのたどってきた進化の過程によく似ている。Linuxはいまや、欠かすことができないほど重要なOSの1つに成長している。Xenもまた、オープンソースプロジェクトのコミュニティによる開発効率の良さと、商用利用での高い要求により成長を続けるだろう。Xenが成長すれば、XenEnterpriseの完成度もより高まることになる。今後は、XenとXenSourceが、サーバ仮想化の普及において、新たな牽引役になることは間違いなさそうだ。