「本社の戦略部門が現場を理解していない」とは、特に大規模な企業でよく聞かれる不満であるが、そのひとつの理由としては、この「情報の配付」が現場に対して適切に行われていない点にあることが多いだろう。
では、「情報の配付」を適切に行うためにはどのような考え方が必要であろうか。できるだけ高度なツールをできるだけ多くの従業員に使ってもらうという考え方が必ずしも有効ではないのは、前述のカジノの例からも明らかだろう。
情報民主主義のシフト
従業員の誰もが同等に情報にアクセスできるべきであるという“情報民主主義”の考え方が喧伝されることがある。もちろん、情報をできるだけ隠し、社内の特定部門や特定の従業員だけが情報にアクセスできる特権を有するという考え方が、企業の競争力強化に結びつかないことは明らかだ。セキュリティに対する考慮は必要だが、「情報は隠すのが前提、必要に応じて公開する」という考え方から、むしろ「情報は公開するのが前提、必要に応じて隠す」という考え方へのシフトが起きているのは確かだ。
しかし、“情報民主主義”をユーザーの誰もが同じやり方で企業内の情報にアクセスすべきであるという考え方と誤解してはならない。ここで言う民主主義とは“直接民主制”ではなく“間接民主制”のようなものだと考えればよいだろう。すなわち、多くのユーザーを代表する特定のユーザーが、高度な情報分析を行い、その結果、得られた知見を他のユーザーに提供するというやり方だ。
つまり、「情報の配付」の最適化には、(1) OLAPなどの高度な分析を行うパワーユーザー、(2) 期間などのパラメータを指定するといった、簡単なカスタマイズによる準定型レポートの利用を行う通常ユーザー、(3)他のユーザーの分析結果から得られた知見を活用するカジュアルユーザー――というようにユーザー層を適切にセグメント分けすることが重要なのである。
高度なツールはかえって生産性を悪化させる
どのようなユーザーがどのセグメントに属するか、また、各セグメントのユーザー数がどのような割合になるかは企業のビジネスにより異なる。しかし、一般企業では、カジュアルユーザー層に属するユーザーが最も多い(過半数を占める)ことが通常だろう。
このようなカジュアルユーザー層への情報配付の手段としては、帳票は重要な選択肢のひとつになる。一覧性、可搬性、コメント付加の容易性、(コメント付加後の)改竄の困難性などを考えると紙の帳票はなかなかに魅力的な媒体である。カジュアルユーザー層に対して高度な対話型分析ツールの利用を強いることは、かえって業務の生産性を悪化させてしまうリスクもある。
膨大な帳票の中から必要な情報を時間をかけて手作業で探し出すというやり方が過去のものになっているのは事実だ。しかし、重要な情報をコンパクトにまとめた帳票は、カジュアルユーザー層、つまり大多数のユーザーに対する簡便かつ効率的な情報配付の手段のひとつとして今後とも重要であり続けるだろう。