企業が100年間培ってきた組織構造は変革される--Enterprise 2.0 SUMMITレポート - (page 2)

富永康信(ロビンソン)

2008-04-23 19:36

社内調整やコミュニケーション関連のコストが上昇

 Newsum氏は、「現在のマネジメントの考え方や経営理念、経営慣行に則って活動している企業や組織は収益が減退しつつあり、成長を追及する必要に迫られている」と指摘する。

 米国におけるGDPの実質成長率を、1889年から2008年までの20年単位の変化で見てみると、19%(1889〜1908年)、31%(1909〜1928年)、58%(1929〜1948年)と着実に上昇し、67%(1949〜1968年)をピークに、その後47%(1969〜1988年)、37%(1989〜2008年)と近年は下降の一途をたどっている。拡大や再展開の可能性がある時代には、より迅速、高品質、安価に製品を作り続けるにはどうすべきかを考えていればよかった。しかし、今後は機敏で革新的な企業となるためには、どのように人々の意識や知見を活用すべきかといった「創発的なイノベーション」が求められるようになっているとする。

 また、知識労働者層の拡大に伴い、企業では社内調整やコミュニケーション関連のコストが上昇している。1984年ごろのゼネラル・エレクトリック(GE)は、労働者総数30万人中の約20%がホワイトカラーで、残りの約80%がブルーカラーだった。それから20年を経過した2007年の段階では、ホワイトカラーの比率は55%に達している。それに伴い、コラボレーションやコミュニケーションに関するコストも上昇し、社内調整に費やす経費が増加しているという。

 McKinseyの調査によると、企業の成長に伴って広範囲な社内調整が必要になったと感じる人は8割近くあり、過去5年の間に社内のやり取りがかなり増えたと感じる人も6割存在するという。

トップダウンとボトムアップをどうバランスさせるか

 また、Newsum氏は、「従来の決定権が上層部に集中していた組織構造では、その下に位置する中間管理層がトップダウンとボトムアップの両面で日々判断を迫られ、もはやオーバーロードの状態になっている。しかし、実際に企業のバリューを作っているのは裾野にいる多くの社員。この人々を有効に活用することが重要となる」と指摘する。

 ナレッジワーカー層が拡大するにつれ、従来のツリー型の組織構造は古いものとなっている。新たな組織の中では、「縦割り」以上に「横のつながり」を重視し、しかも孤立しない状態でそれぞれを連携させることが必要になる。個人個人が自分のリソースを自分で探し、ステークホルダーとの関係を保つことも必要になってくる。

01 今後求められる組織の中では、これまで「管理職の仕事」とされていた管理業務を、個々人が部分的に肩代わりする必要が出てくるという。

 同氏は、Enterprise 2.0のテクノロジーを使うことによる業務の改善が、創発的なイノベーションへつながると主張する。従来の組織構造では下層にいて、上からの指示を待つ立場にいた人たちが自分で考え、決断し、開発することによって、組織はより良いものになっていくという。

 しかし、トップダウンとボトムアップのバランスをいかに保つかも重要であると釘を刺す。アップルのように、CEOであるSteve Jobs氏のトップダウンで成功する企業がある一方で、Googleのようにボトムアップで成功する例もある。しかし、おのおのの企業によって異なる最適なバランスを損なうと、皆が自由な活動にばかり注力し、コアの問題に誰も対処しないという問題も起きる。

 「バランスが上手く取れていなければ全く意味がない。その企業にとって最もバランスの取れたEnterprise 2.0の活用を探ることが必要になっている」(Newsum氏)

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