では、それぞれの方式についてひとつずつ説明しよう。
ルールベース方式
ルールベース方式は、「インテンショナル方式」とも呼ばれ、「デジタルカメラを買った人にSDカードを勧める」といった商品の関連性はもちろん、「紙おむつを買った人にビールを勧める」といったように、データマイニングでしか出てこないような意図的なレコメンドができるのが特徴だ。必要な情報はマーケティングデータや運営者の特別な意思となり、ルールとしては運営者が独自でレコメンドしたいアイテムを選択することになる。ただし、ユーザーの意思が反映しづらく、アイテム数が膨大になるとルール設定のメンテナンスや入力の手間がかかることが欠点だ。
コンテンツベース方式
コンテンツベース方式は、アイテムごとのスペック、値段、テキストといったコンテンツ情報の類似値を自動計算し、閲覧した商品に類似した商品をレコメンドする方式だ。例えば、ノートパソコンのサイズやメモリー容量、賃貸の間取りや家賃などがレコメンドに必要な情報となる。
複雑なものになると、音楽のメロディやテンポ、絵画の色彩、作者の心情などをひとつひとつポイント化して類似値を計算することも可能だ。この方式では、ユーザーの顕在的ニーズから極端にかけ離れたものは表示されず、アイテム間の類似値をあらかじめ用意しておけば導入直後でも目的に沿ったアイテムがレコメンドできる。しかし、現在はテキストマイニングによる分析手法が採用されているため、類似値が固定してしまい、同じようなアイテムばかりレコメンドされるという欠点がある。
協調フィルタリング
協調フィルタリングは、ウェブアクセス履歴データなどユーザーの行動履歴を基に、ユーザー同士の嗜好の類似値を自動計算し、「この本を買った人はこんな本も買っています」といったレコメンドを実現する。代表例は「Amazon.com」のレコメンドで、現在ASP型ソリューションとして最も多く採用されている。この方式では、ユーザーの行動履歴のみを情報とし、コンテンツ情報を一切見ていないことが最大の利点だ。コンテンツ情報を見ないことで、ユーザーは「思いがけない発見」、つまり「セレンディピティ(serendipity)」が体験できるからだ。
セレンディピティとは、偶然から価値あるものを発見する「能力」を指し、1754年に小説家のHorace Walpole氏が生み出した造語だ。ウェブの世界では、検索エンジンやレコメンデーションからユーザーが予期しない商品やコンテンツを見つけることを指す。自分の嗜好に類似した人が見た商品は、今まで自分が見た商品とはまったく関係ないのに自分の嗜好にマッチしている、といった偶然の発見がセレンディピティなのだ。
第1回でも説明したが、このセレンディピティこそ協調フィルタリングの醍醐味であり、ECサイトがレコメンド技術に求める効果の1つだ。また、コンテンツ情報をあらかじめ用意する必要もないため管理コストがかからず、膨大なユーザーアイテムに対応できるため、運営者にとっては導入しやすいレコメンド方式といえる。