ファーストリテイリングCIOが考える「CIOの資質」とは

富永康信(ロビンソン)

2008-09-05 22:41

 2008年9月3日、社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の主催によるイベント「JUASスクエア『ITガバナンス2008』」が開催された。初日に行われた「CIOが舵を切るビジネスプロセス革新の鍵とは?」と題するパネルディスカッションでは、ファーストリテイリングの執行役員でCIOを務める岡田章二氏、同社にSIで協力するITベンダーの立場で、NTTデータの取締役常務執行役員である荒田和之氏をパネラーに迎え、CIOに求められる資質、IT部門の役割やIT人材の育成などに関しての議論が行われた。

3回の成長、4度のシステム変遷

 日本最大の衣料品専門チェーンのユニクロなどを傘下に納めるファーストリテイリングは、2008年8月期の連結売上高見込みが5855億円(前年比11%増)と、国内アパレル市況が悪化する中で堅調な成長を続けている。ワールドワイドにおけるベーシック系アパレルSPA(製造小売)では、米GAP、スペインのINDITEX (ZARA)、スウェーデンのへネス・アンド・マウリッツ(H&M)などが居並ぶ中で、同社は世界第7位に位置する。

 そんなファーストリテイリングには、成長時期が過去3度あったという。創業から90年代終盤までが第1成長期、フリースブームが起こった2000年ごろからの第2成長期、その後一時低迷期を経て、多角的なグループ経営に踏み出した2004年から現在までの第3成長期だ。

 それぞれの節目でシステムも変化してきた。衣料品の小売時代にはアウトソーシングでまかない、国内の衣料品チェーン展開を図った時期はメインフレームを導入。その後、SPA化していったことでシステムもトライアンドエラーを繰り返すためにオープンシステム化し、グローバルプレーヤーを目指す現在は海外製ERPを活用している。

ファーストリテイリングは成長期にあわせてシステムを刷新してきた ファーストリテイリングは成長期にあわせてシステムを刷新してきた

IT部門の心得と方向性

 今回のモデレーターを務めるガートナージャパンバイスプレジデントの堀内秀明氏は、「ユーザー企業のIT部門にはどんな役割が期待されているのか。また、人材の育成においてはどのような取り組みを行っているのか」という質問を投げかけた。

 岡田氏は、ファーストリテイリングに入社した1993年に、当時の社長であった柳井正氏(現代表取締役会長兼社長)から1枚の書類を受け取ったという。その内容は次のようなものだった。

  1. 情報システム化すれば費用以上に効果の上がる業務の特定と業務分析をする
  2. 情報システム化の目的と範囲を明確にする
  3. 情報システムの人間が現場より現場を知る
  4. その業務のリエンジニアリングをする
  5. その業務の標準化、マニュアル化、計画化をする
  6. 単純明快なトータルシステムを組む
  7. それが我社およびコンピュータ業界の3年後、5年後、10年後の方向性と矛盾しないようにする

 これは柳井氏自らがIT部門の心得と方向性を説いたものだ。当時のファーストリテイリングは山口を基点に活動し、福岡や名古屋などの関西圏にユニクロを展開し始めていたころだった。そうしたリージョナルチェーン時代から同社はこのような理念を掲げ、いまだに社員教育やミッションのベースとして活用しているという。

教育はCIOが現場に入り共に仕事をすること

岡田章二氏 効果的な人材育成にあたっては自らが現場に入ることが一番と語る、ファーストリテイリング執行役員CIOの岡田章二氏

 岡田氏は「人材の育成は難しい」と本音を漏らす。

 「(人材育成について)本部長以下、組織のリーダーに任せていてもうまくいかない。外部の研修を導入しても効果が出ない。そこで得た結論は、CIO自ら現場のスタッフと一緒に仕事をしていくしかないということだった」(岡田氏)

 今も、業務時間の半分以上は部下の教育に当てているという岡田氏は、自分自身が現場に入り、業務改革のためにディスカッションしたり計画をレビューしたりと、考えを部下に伝えていくことでしか教育は成り立たないと信じる。また同氏は、社外のITパートナーにも同じ視点を持ってもらうことを期待するという。

 「言われたことだけを作るならビジネスプロセス改革は望めない。お互い対等に意見を言い合える関係が必要だ」(岡田氏)

荒田和之氏 「ビジネスプロセス改革にあたっては顧客と一連託生のチームプレイが不可欠」と述べるNTTデータの荒田和之氏

 そして、同社のシステム開発を手がけるNTTデータの荒田氏は、ITプロバイダーの立場として岡田氏の意見に深く同意する。「従来なら、ITベンダーのポジションはシステムインテグレータの立場でよかったが、最近はパートナーの立場で耳の痛いこともどんどん言ってくれという顧客が増えている。同じ船に乗り、同じ釜の飯を食う関係で仕事をしたいという期待があるのを感じる」と語る荒田氏は、発注者と受託者という「上下の関係」であれば、システムは完成しても良い成果は出せないと断言する。

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