「Notes連携」から「Notes移行」へ
阿部氏は「サイボウズも、中堅企業向けのガルーンを初めて世に出した当初は、IBMのサーバ上でガルーンを動かそうという協業的な動きがあった」と打ち明ける。ガルーンを発表した2002年5月は、ちょうどNotes/Domino 6がリリースされた時期にも重なり、連係機能を加えることによって双方の強みを活かし、グループウェア市場の活性化を図ろうと考えていたという。
しかし、その後サイボウズが行ったユーザーアンケートでは、ライセンスが二重となるNotesとの連携ではなく、ガルーンへの全面的な乗り換えを検討するユーザーが増え始めていることが判明。そこで同社は、連携による協力関係を180度転換し、2004年5月にNotesのデータをガルーンに移行するための「サイボウズ ガルーン コンバータ for Lotus Notes」をリリース。一転してNotes移行戦略をとった。Notesユーザーの多くは、メールや掲示板といった基本機能だけを利用しており、費用対効果に満足していないという判断からだったという。
「サイボウズのグループウェアは、中小企業向けというよりは、まず大企業の部門レベルでゲリラ的に利用され始め、ボトムアップで支持されてきた」と話すのは、同社の開発本部でプロダクト管理部のプロダクトマネージャーを務める中野匡章氏だ。
同氏によると、企業全体ではNotesを使用することが決められていても、情報システム部門の目が届かない部署単位でサイボウズ Officeシリーズが使われ始め、その使い勝手の良さから次第に広がっていったという。当然、会社としては認められない事態だが、現場に強く支持されることでサイボウズを認めざるを得なくなり、しばらくはオフィシャルなシステムとの二重管理になる。しかし、どちらかに集約しようと考えると、利用効率の高いサイボウズを選択する企業が多いのだという。その流れで、大規模対応のガルーンが登場したと中野氏は振り返る。
コラボレーション基盤は2極化へ
ただし、Notes/DominoやマイクロソフトのSharePoint+Exchangeと、サイボウズのOffice/ガルーンとを、コラボレーションというカテゴリで同列に論ずるのは、いささか乱暴ともとれる。Notes/DominoやExchange、SharePointはコラボレーションのミドルウェア的役割を果たす製品であり、開発プラットフォーム的な要素が強い。それに対し、サイボウズ製品はアプリケーションであり、手間をかけずにグループウェアを使いたいというニーズに応えるもの。前述したように、その利用目的には明らかな違いがある。
中野氏は「情報システムツールに何を要求するのかにもよるが、市場ではコラボレーション基盤にミドルウェア的な開発プラットフォームを求めるか、あるいはすぐ使えるアプリケーションを求めるのかといった2極化が進んでいる」という。
Notes/DominoやExchange+SharePointを抱える大手SI業者は全体提案となるため、とかく大がかりな案件になりがちである。サイボウズであれば、徐々にユーザーを追加していくようなことも合わせて、投資幅に融通が利かせやすいために、情報システム担当も経営層に対するコスト説明がしやすいのではないか、とも中野氏は分析する。
サイボウズでは、最新の「ガルーン2」における特長を、マニュアルなしでもすぐに使える容易性と、ウェブサーバ/アプリケーションサーバ/データベースサーバを分割構築できる拡張性としている。さらに、「連携力」には特に注力しており、この価格帯では珍しいシングルサインオンやパスワード連携を実現。基幹システムやウェブシステムなどとの連携を高いコストパフォーマンスで実現できる点を売りにしている。同社では、これらの特長を端的に「おてがる」「ひろがる」「つながる」と表現する。この3つの「〜がる」が「ガルーン」の商品名の由来ともなっている。
自社にフィットするコラボレーションの姿を明確に
しかし、グループウェアに対する投資優位性が昔に比べて下がってきていることも事実だ。今ではグループウェア系ツールは企業に浸透して投資が行き渡り、メールや掲示板程度に利用するだけなら、現状のままでよいという判断になる。今後サイボウズでは、使い勝手の良さや費用対効果という点より、システムの使わせ方による業務効率化が進むという方向で説得を試みていく。
中野氏は、「グループウェアが電話のようにインフラ化した今、セキュリティの強化や運用のしやすさなどを兼ね備えた、安心・安全の基盤として整備しなければならないと考えている」と語る。
一方、阿部氏は、「コラボレーションという概念はあいまいなため、今後の投資においては注意が必要だ」と指摘する。企業がコラボレーションをどのように定義するか、どこまでを自社の問題意識としてコラボレーションしたいのか、そこが漠然としていると、ベンダーの言いなりであれもこれも入れてしまい、結局機能をほとんど使っていないという状況になりかねないという。
「まず、自社の身の丈にあったコラボレーションの姿を思い描き、どのようなステップを踏んで実現させていくべきなのかを明確にしておくことが重要だろう」という阿部氏は、それによって投資が生きるか否かが決まるとした。