会津若松スマートシティ

産官学連携で推進する会津若松スマートシティのチャレンジ

津田浩司

2013-10-23 07:30

 NHK大河ドラマ「八重の桜」の前半の舞台となった福島県会津若松市で今、産官学連携によるスマートシティづくりが進められている。そのエネルギー分野における具体的な取り組みとして、政府の復興事業として「スマートグリッド事業」がスタート。また、スマートシティ分野におけるオランダ・アムステルダム市との連携も発表された。人口12万5000人の地方都市で始まったチャレンジを4回シリーズでリポートする。

アムステルダムと連携 “会津モデル”で世界に貢献

 ICTをテコに快適でエネルギー消費の少ない街づくりを進め、21世紀の新しい都市モデルをつくる。そんなスマートシティプロジェクトが今、福島県会津若松市で進められている。関係者の並々ならぬ意欲を感じさせたのが、9月24日に発表されたオランダ・アムステルダム市との連携だ。世界的に有名なスマートシティ先進都市の1つ、アムステルダム市との間で、関連分野の成果や知見を相互に共有するとの内容である。

 「既存の市街地のスマート化を進めていること、エネルギーをはじめ医療や農業など幅広い分野での融合を図っていること。こうした点において、両市が目指す方向は一致しています」と会津若松市長の室井照平氏は語る。

 都市の規模など、2つの都市には異なる点もあるが、効率的なエネルギー消費と環境負荷の低減、市民の利便性の追求などは世界中すべての都市にとっても重要な課題だ。スマートシティプロジェクトが世界各地で同時進行している背景にはいくつかの要因がある。エネルギーコストの増大、環境意識の高まりに加えて、最近になってICTの進化をはじめ課題解決に必要なピースが出そろいつつある。

 人口12万5000人の会津若松市は、典型的な日本の地方都市でもある。地場産業の低迷、進行する高齢化、それに伴う医療や行政サービス負担の増大。さまざまな社会課題に対して有効な解決方法を見出すことができれば、“会津モデル”が全国の諸都市、さらに世界に貢献することもできるだろう。

 会津若松市のプロジェクトにはさまざまな側面がある。構想段階のプランも少なくないのだが、一方では、具体的な動きや成果が見え始めた分野もある。先行して着手されたエネルギー関連の取り組みである。

林業の活性化と電力供給を担う 木質バイオマス発電所が稼働

 会津若松市の「スマートグリッド事業」は、政府による復興事業の一環と位置付けられている。エネルギーの地産地消、産業の活性化、省エネの推進という3つの柱からなるスマートグリッド事業の全体像は図の通りだ。

スマートグリッド事業の全体像 スマートグリッド事業の全体像
※クリックすると拡大画像が見られます

 会津地方は、水力発電をはじめ再生可能エネルギーが豊かな地域である。従来は廃棄されていた木材を利用する木質バイオマス発電所は会津若松市の工業団地に建設され、2012年7月に本格稼働を始めた。

 「この発電所は復興事業としてではなく、大震災以前に計画されました。会津地域の約8割は森林が占めていますが、林業は盛んとは言えません。間伐があまり行われていないこと、雪の重みで曲り材が多いことなどから、市場での評価が高くないからです。そこで、これまで放置されてきた山林未利用材を活用できないかと考えました。これを発電に用いることで、林業活性化にも役立ちます」と語るのは、木質バイオマス発電所を運営するグリーン発電会津常務の笹島敏氏である。

 スマートグリッド事業とは別に計画されたプラントは、今ではスマートグリッドの構成要素の1つと位置付けられている。その発電能力は、一般家庭1万世帯分の電力に相当する。現在はほとんどがPPS向けだが、一部を東北電力にも供給しているという。

 笹島氏によると「冬には雪の影響で、道路がストップすることもある。特に山林のほとんどは豪雪地帯です。木材の確保には苦労しています」という。冬場の雪とどう付き合うかは、会津地方の産業を考える上で重要な要素だ。

 原発事故の影響もある。同社は当初、焼却灰を肥料に再利用する予定だったが、放射線量が十分に下がっていないことから実行には移していない。放射線のレベルを下げるために、プラント搬入前の段階で樹皮を取り除く作業も発生している。そのためのコストは、同社が購入する原料の価格に跳ね返ってくる。固定価格買い取り制度(FIT)は確かに追い風ではあるが、それを相殺する要素も少なくない。

 ただ、水力や地熱、木質資源などを含めて、会津地方には大きな再生可能エネルギーが存在する。その供給力をいかに拡大するか、そして電力多消費型の産業立地につなげるかがスマートグリッド事業の次の重要テーマだ。

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