組織の透明力

経営を劇的に改善するキーワード「真実の瞬間」とは - (page 3)

斉藤徹(ループス・コミュニケーションズ)

2013-10-28 08:00

 徹底した消費者や店頭調査により、消費者とブランドの真実が明らかになってきた。消費者が行うブランド選択の70%は店内で起こっている。特に継続購入していたブランドから競合ブランドにスイッチが起きる現象の50%が店頭で起きていた。一方でメガブランドにおいては、店頭での品切れが100%起きていることもわかった。店頭はメーカーが直接手を出せない聖域でありながら、ブランドの勝負が決する最も大切な顧客接点だったのだ。

 この調査に基づき、ラフリーは製造業における「真実の瞬間」を捉え直した。メーカーにおける「真実の瞬間」は二つある。店頭で製品を購入してもらう「第一の瞬間」と、家庭内で実際に製品を使ってもらう「第二の瞬間」だ。中でもラフリーが重視したのは、ブランド選択の70%を左右する店頭でのブランド接触、つまり「第一の瞬間」だった。

 調査によると「第一の瞬間」はわずか3~7秒の一瞬だという。それで新製品ブランドの生死が決まってしまう。テレビCMで見た新製品を店頭で見つけ、CMイメージとPOP広告、商品パッケージ、提供価格が交差し、直感で買うか買わないが判断される。それはメーカーにとっても小売にとっても等しく「真実の瞬間」なのだ。

 ただし、そこには難問があった。売り場を支配する小売チェーンはメーカーにとって利益相反する相手だったからだ。そこでP&Gがとった解決策は、小売りと手を組んで新たな価値を創造し、共存共栄の結果を導くことだった。同社は営業組織を廃止し、CBD(Customer Business Development)という顧客ビジネス開発組織を新設する。それは小売チェーンとWin-Winのパートナーシップを築くための戦略的な組織だった。

 P&Gの20%近い売り上げを占める世界最大の小売チェーン、ウォルマートとの提携を例にあげよう。販売、マーケティング、業務、情報処理、流通、財務の専門社員80人で構成された専用CBDチームが新設され、ウォルマート本社の近くに陣取り、同社チームとジョイントした。共通の目的は消費者への付加価値創造だ。新製品の広告キャンペーンと店頭での特別陳列を連動させる。女性客が思わず衝動買いしたくなるような演出を施す。売れ筋製品の品切れが起きないよう個店ごとの発注数を細かく配慮する。それを全面的にバックアップするための情報システム、ECR(Efficient Consumer Response)も開発され、製品から販売まで一貫した情報を共有できるようになった。さらにはICタグなど実験的なIT活用アプローチも協業のもとで進んでいる。

 P&Gは、他社ブランドとの店頭での戦いに勝つための責任者としてFMOT(First Moment Of Truth)ディレクターを新設し、小売パートナーに対して継続的なマーチャンダイジング計画を提案している。同社は仮説と検証を繰り返しながら「第一の瞬間」における競争優位を科学的なアプローチで追求し続けているのだ。

リピート利用を決定づける、家庭内での「第二の瞬間」

 そして「第一の瞬間」の直後には、実際に消費者が製品を使用する「第二の瞬間」を迎えることになる。P&G製品は世界180カ国で1日に44億回も使用されており、その顧客経験が約束通りの効用を発揮できるか否かで、継続的に利用されるかどうかが決まってゆく。新規顧客獲得のキーが「第一の瞬間」だとすると、その顧客が継続利用するかどうかは「第二の瞬間」にかかっている。

 商品を体験する「第二の瞬間」を経て、ブランドの評価が消費者の記憶に刻まれてゆく。この時の記憶が、再購入の確率に大きく影響してくるのだ。「第二の瞬間」の体験がブランドの事前期待を下回れば、残念ながら次回の購入ブランド候補からは漏れてしまうだろう。一度でもネガティブなレッテルが張られたブランドは、その信頼を回復するために多大なるパワーやコストが必要となってしまう。

 逆に、2回目、3回目と同じブランドを購入し、満足度の高い顧客体験を提供できれば、顧客はそのブランドに信頼感や愛着を持ちはじめる。徐々に競合ブランドと比較することもなくなり、継続的な購入が習慣化していく。この検討や評価をショートカットする購買行動を、戦略系コンサルティングファームのマッキンゼーは「ロイヤルティループ」と名づけた。スカンジナビア航空でカールソンが目指したのも、この「第二の瞬間」における顧客体験、それによるロイヤルティループの構築だった。

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