A.T. カーニー論考

ビッグデータ--金融業界で最先端の競争領域

A.T. カーニー論考  監訳: 安茂 義洋

2014-11-27 07:30

 金融機関にとってビッグデータの潜在力は非常に大きく、破壊的な変革を業界にもたらすだろう。

 近年バズワードになりつつあるビッグデータは、広義には従来のデータマネジメントツールやアプリケーションでは扱うことがほぼ不可能な巨大かつ複雑なデータセットを指す言葉である。

 ビッグデータの主な特徴を4つ挙げると、1)大きな情報量:一般的には10テラバイト以上のデータ。 2) 速い情報処理スピード:一般的に1秒以内に完結をするようなデータの処理。3)多様なデータ形式:保存が容易なテキスト形式だけではなく、画像やビデオなどの構造化されていないデータも含む。4)付加価値の実現:1つ1つのデータの価値は小さくても、最終的なアウトプットは高い付加価値をもつ。


 ビッグデータは数多くの業界で活用されており、われわれの日常に深くかかわるものである。例えば、Amazon.comはビッグデータ分析を利用して、消費者の認知と関心に基づいて商品を推奨している。また、米国の大手ストリーミング配信会社Netflixは、人気テレビ番組『House of Cards』を制作するにあたり、ビッグデータ分析の手法を活用し、視聴者の早送りやリピートの挙動を分析することで、最適なディレクター、俳優、ストーリーの組み合わせを導き出した。

ビッグデータは破壊的な変革を金融機関にもたらすだろう

 製造業や流通業と異なり、金融業界は生産ラインや物流のプロセスを持たない。そのかわり、銀行、証券会社、保険会社などの日々のオペレーションは、大量のリアルタイム取引と、その取引における意思決定を支える膨大な過去の取引履歴によって成り立っている。このような領域において、ビッグデータの潜在的な価値は極めて大きく、破壊的な変革を業界にもたらすだろう。

 変化は主に2つの領域で起こる。1つ目は、マーケティングの分野である。これまでの情報活用手法と異なり、ビッグデータを活用することで金融機関は顧客データの収集、分析を通じて、より一人一人に合致をした個別サービスを提供することができるようになる。

 2つ目は、リスクマネジメントの分野である。クラウドコンピューティングによって、リスク計算のデータ処理にかかるコストは低減している。今後、伝統的なリスク管理モデルは、ビッグデータによって大幅に書き換えられていくだろう。このようなビッグデータ活用で、優位性をうまく獲得できた金融機関は、オペレーション効率を高め、業績を向上させるだろう。

 金融業界のマネジメントは、マクロ視点での全体的な管理から、より詳細なプロセスとパフォーマンスの管理へとシフトしており、この流れは今後も続いていくだろう。それは利益主義から顧客主義への変化を意味しており、同時に企業文化として担保主義から、総合的なリスク管理をより重視する姿勢への変化でもある。

 次の10年間で、ビッグデータはますます速いスピードで金融業界に浸透し、ビジネスを革新させる新たな波となるだろう。この変化は、さらに高度化したオンラインバンキングやモバイルファイナンスなどの新しいサービスモデルの出現のきっかけともなっている。伝統的な会社では考えられないような膨大な消費者の取引データを武器に、多くの新興インターネット企業も、新市場に商機を見出し金融業界への参入を図るだろう。

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