松岡功の一言もの申す

日本企業はクラウド利用のメリットをもっと追求すべし

松岡功

2015-05-20 12:00

 企業がクラウドを利用するメリットは何か。最近、その本質的なポイントが少々ぼやけてきているような気がしてならない。この点について興味深い話を聞いたので紹介したい。

日本企業のクラウド利用における課題

 「日本の企業では、相当数の情報システム要員を抱えたままオンプレミスからクラウドに移行しようとするところが少なくない。これではトータルコストとして、クラウド化のメリットを生かせない」

 こう語るのは、インターネットイニシアティブ(IIJ)の鈴木幸一会長だ。同社が先ごろ開いた2015年3月期の決算会見で、「日本企業のクラウド利用における課題」について聞いた筆者の質問に答えたものである。

 鈴木氏はさらに、「欧米企業に比べてシステムのオープン化が遅れた日本企業は、クラウド化についてもオープン化のときと同様、保守的な対応が目立つ。もちろん、企業個々においてさまざまなリスクを検討して対処することは必要だが、コスト削減をはじめとしたクラウド化のメリットをあらためてよく考えてみてほしい」と強調した。

 鈴木氏とともに会見に臨んだ同社の勝栄二郎社長もこの点について、「企業にとどまらず、日本の政府や地方自治体が取り組んでいるeガバメントについても、グローバルな観点から見てかなり遅れている。例えば、全国の地方自治体ではいまだにそれぞれ独自のシステムを使用している。こうした無駄を取り除くためにも、共用のクラウド化を急ぐべきだ」と語った。

 ちなみに、IIJのクラウド事業の売上高は、2015年3月期で122億6000万円。前期に比べて25%伸び、2016年3月期も前期比22%増の150億円を見込んでいる。これらは同社の全体の売上規模からすると1割前後といったところだが、同社にとっては成長株の注力事業だ。

 この売上高で注目されるのは、すべてがパブリッククラウドサービスの数字であることだ。具体的には共用型と専有型があり、専有型については「ホステッド型プライベートクラウド」とも呼ばれるが、同社では月額利用料金に基づくサービスをクラウド事業として位置付けている。これは明解な実績の示し方といえる。したがって、鈴木氏と勝氏の発言はパブリッククラウドサービスを前提としたものである。

パブリッククラウドの有効活用が最大のカギ

 両氏の発言を踏まえて、あらためて企業がクラウドを利用するメリットは何なのかを考えてみたい。というのは最近、その本質的なポイントが少々ぼやけてきているような気がしてならないからだ。以下に筆者の見解を示す。

 クラウドの本質的なポイントは、ITリソースを自前で「所有」するのではなく、必要な分だけ「利用」するところにある。つまり、ユーザーである企業はITリソースを持たない。これに当てはまるのは、パブリッククラウドとホステッド型プライベートクラウド、すなわちIIJが言うように「月額利用料金に基づくサービス」だけである。

 では、企業がそうしたクラウドを利用するメリットは何か。コスト削減、最新技術の適用、サービス利用の短期開始や柔軟性など、さまざまな面が挙げられる。とりわけ、強調しておきたいのは、ITリソースを自前で持たないことから、初期投資のハードルの低さがユーザーである企業にとっては最大のメリットであるということだ。

 こうした見解からすれば、ユーザーである企業がITリソースを所有するプライベートクラウドは「クラウド」ではなく、従来の自社システム構築、運用である「オンプレミス」と同じだ。また、最近ではオンプレミスとクラウドを連携させる「ハイブリッド」利用に対するニーズが高まっているが、これもパブリッククラウドをいかに有効活用するかが最大のカギになると考える。

 こうした論議は当初からあったものだが、とくにハイブリッド利用のニーズが高まってきつつある中で、本来のクラウド利用のメリットが抑制されてきているように感じるのは筆者だけだろうか。鈴木氏と勝氏の発言を聞き、あらためてこうした論議が企業の間でしっかりとなされることを期待したいと思った次第である。


会見に臨むIIJの勝栄二郎社長(左)と鈴木幸一会長

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