クラウドシフトを強調するIBMだが、2015年の第1四半期決算で目を引いたのは、メインフレームの好調だ。「z Systems」の売上高は、前年同期比118%増加した。IBMの国内外のメインフレーム事業の動向について、日本IBMで最もメインフレームに詳しい人物の1人と称されるシステムズ&テクノロジー エバンジェリストの北沢強氏に、話を聞いた。
日本IBM システムズ&テクノロジー エバンジェリスト 北沢強氏
まず、メインフレーム市場とIBMのメインフレーム事業の動向について教えてください。
IDCなどの調査によれば、現在の世界のメインフレーム市場規模は約5000億円。2000年には1兆円市場だったところから半減しています。日本IBM社内でも、メインフレーム営業部隊の人員が15年で半減しており、寂しい限りです。
ただし、IBMのメインフレーム製品への開発投資は15年間横ばい。基礎研究費を含まない製品開発費だけでも年間1000億円の投資を続けてきました。1400人の製品開発部隊が3年サイクルで1製品を作り上げ、毎年新製品をリリースしています。直近では、「IBM z13」をリリースし、3月に出荷を開始しました。
1000億円もの開発費は、もちろん機能向上にも投資していますが、互換性の維持にも使っています。IBMのメインフレーム初号機をリリースしてから51年経ちましたが、メインフレーム上に一度作ったアプリケーションはずっと使えることを保証しています。
国内市場はどうでしょうか。
IBM z13の外観
国内のメインフレーム市場規模は約1000億円で、国内サーバ市場全体の20%を占めています。サーバ市場も今後マイナス成長が予想されますが、メインフレームがサーバ全体の2割という数字はこれ以上減ることはないでしょう。
金融機関などの大規模システムに導入されている機器の更新需要が定期的に発生しますし、1990年代にダウンサイジングされた分野も、データ処理量が増加してシステムが肥大化すれば、いつかメインフレームしか選択肢がなくなります。
国内市場は、IBM、富士通、日立製作所、NECの4社で分割しており、IBMのシェアは30~40%ほど。メインフレームの製品の特性上、競合間の乗り換えはほぼ発生しません。
ちなみに、IBMのメインフレームの世界シェアは80%、日本を除くと93%です。日本市場だけが、過去に国内ベンダーを優遇した国策の影響が色濃く残り、特殊な状況になっています。
IBMはクラウド戦略として「クラウドとメインフレームの連携」を挙げています。メインフレーム市場が成長しないなかで、今後はクラウド事業がメインフレーム事業を牽引するのでしょうか。
IBM z13の内部
クラウドサービスにメインフレームを牽引させていくという解釈は正しくありません。好採算路線を徹底するメインフレームは、IBMの利益の多くを稼いでおり、むしろ、新しいクラウドサービスへの投資を支えているのがメインフレームです。
“(PaaSの)Bluemix上で稼働するモバイルアプリケーションがメインフレームに連携する”というのは、IBMのクラウド戦略におけるメインフレームの位置付けの1つです。
メインフレーム屋の立場でこの戦略を解説すると、まず、メインフレームの最新製品IBM z13は、従来の基幹業務処理に加えて、モバイル連携やリアルタイムのアナリティクスに対応しています。z13内で、モバイル対応システムと、バックエンドの基幹システムを同時に実行して、データ連携することが可能です。
一方で、仕様や要件の変化が早いモバイルアプリを、50年の互換性が要求されるメインフレームに実装するよりも、クラウド基盤上でスモールスタートしたいというニーズがあるわけです。Bluemixはこのようなニーズに対応します。