人材育成の新手法「アクティブラーニング」

育成の鍵は「教えないこと」--アクティブラーニングとは何か - (page 2)

得能絵理子

2015-07-04 07:00

 課題への解決策を提示する際、自分の頭で能動的に考えることを強いられるためか、Sandel教授のような「課題解決型」の授業を受けている学生には、多様な“自分の意見”が生まれやすい。

 この点は、教員が一方的に知識を教える「講義型」で答えを暗記させることよりも優れている点であり文科省がアクティブラーニングを採用した理由でもある。「――従来のような知識の伝達・注入を中心とした授業から、教員と学生が意思疎通を図りつつ、一緒になって切磋琢磨し、相互に刺激を与えながら知的に成長する場を創り、学生が主体的に問題を発見し解を見いだしていく能動的学修(アクティブラーニング)への転換が必要である」(2012年8月 文部科学省 中央教育審議会)

 社員研修をしていると、企業の研修や教育手法も講義型から課題解決型への転換が必要であると感じる。

 研修を通じていくつも企業を見てきたが、上司、マネージャーが部下に考えを求める場合、「前例踏襲の回答」を求めるケースが多いと感じる。OJTをはじめとした新人育成の現場では、業界の基礎情報や関連する法律といった形式知や、あうんの呼吸で実施する商習慣などの習得を優先する傾向がある。

 新人にとってインプットは最も大切であるが、それが行き過ぎた結果として、会社の考え方や方法論に固執し、柔軟性を欠いてしまうようでは、育成が成功したとは言えなくなってしまう。

 聞くだけの講義型の研修に慣れて会議での発言が少なくなってしまっては、独創的なアイデアが生まれる土壌を作れない。人口が減る日本では、異なる文化圏で生活する海外の消費者にも受け入れられるような独創的な製品やサービスの創出が求められている。そのために“イノベーション”が必要になってくるのだ。

 総務省でも2014年から、イノベーションを起こせる人材を発掘するための施策「独創的な人向け特別枠」(通称:変な人)を設置した。イノベーションのためのプロジェクトを政府が推進するという。「失敗を恐れるなど、減点主義の企業が実際は多く、出る杭は叩かれる」「日本の法人の多くは合議制であり、部長が許可しても社長がだめなら進まない」など独創的な企画が出にくい、日本企業の会議などでの体質についての指摘もある。

 情報システム部門もシステムの運用とともに、売り上げに貢献するための要素が要求され、新規事業や新サービスを生み出す“イノベーション”の話に無関係ではいられない。

 そうしたイノベーションを生み出すために、企業はどのように人材を育成すればいいのか。ここでは、教育現場とともに、日本企業もイノベーションのために能動性を養う教育が必要という観点から論を進めたい。

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