標準化への国家的取り組み始まる--電子カルテを医療ビッグデータの集約基盤に

羽野三千世 (編集部)

2015-09-28 12:16

 病院が個々に保有する医療データを集約し、医療の質の向上に活用しようというプロジェクトが増えている。

 医薬品医療機器総合機構(Pmda)が推進している「センチネルプロジェクト」では、大学病院などの大規模病院から電子カルテの診療データ、レセプトデータ、投薬指示情報といった医薬品評価に必要なデータを集めて、医薬品のリスク評価や薬剤疫学研究に活用することを目指している。また、国立病院機構は、病院間の医療水準の比較や格差是正を目的に、2015年から同機構に所属する143病院の診療データを集約、分析することを始めた。

 このような国家規模のプロジェクトは、病院から医療情報を吸い上げるためのネットワークやデータを集約するための基盤の構築から始める必要がある。さらに、データを提供する病院側にも、院内にあるデータを集めて指定されたフォーマットに整えるなどの作業負担が発生する。

電子カルテでありデータ集約基盤でもある

 富士通が発売している大規模病院向け電子カルテシステム「FUJITSUヘルスケアソリューション HOPE LifeMark-HX(LifeMark)」は今後、研究プロジェクトや病院機能評価などで医療データを外部に発信する機会が増えていくことを見越し、各病院の医療データを統一フォーマットでクラウド基盤上に集約する設計になっている。

 同社 ヘルスケアシステム事業本部 医療ソリューション事業部 事業部長代理の中川昌彦氏は、「LifeMarkは、電子カルテシステムであり、医療データを集約するプラットフォームでもある」と説明した。

 LifeMarkは、従来、クライアント/サーバ方式で提供してきた大規模病院向け電子カルテシステムをクラウドサービス化したものだ。同社は、これまでに中堅規模病院向けのクラウド型電子カルテシステム「HOPE Cloud Chart」とSaaS型型地域医療ネットワーク「HumanBridge」を提供し、それぞれのクラウド基盤を運用しているが、LifeMarkのクラウド基盤はそれらとは別に“データ集約ICT基盤”の位置付けで新規構築している。

 「ベッド数400床以上の大規模病院で富士通の電子カルテのシェアは50%。これらの電子カルテデータを統合するクラウド基盤は、当社の中でも最大規模のプラットフォームになる」と中川氏。将来的には、LifeMarkのクラウド基盤にHOPE Cloud Chart、HumanBridgeを統合し、ここに集まったデータを全国の診療所や介護施設からも利用できる包括的な医療ICT基盤に発展させていくとする。

集約データを病院経営にフィードバック

 理想は、マルチベンダーで電子カルテデータを集約することだ。中川氏によれば、電子カルテシステムの インターフェースはベンダーごとに独自色が強いが、各社とも出力されるデータの標準化には積極的。ベンダー横断でのデータ集約は、比較的やりやすい業界環境と言える。「単一の基盤にすべての電子カルテデータが集約されるようになれば、全国の病院の医療データを集めるような国家プロジェクトが、今より格段に低コストで実施できるようになる」(中川氏)

 医療データがクラウド基盤上に集約されることは、病院側にとってもメリットが大きい。研究プロジェクトや病院機能評価の際に、すぐに医療データをそろえて出せるようになる。それだけではなく、自院の医療水準や経営状態を他院と比較する、グループ経営の病院間で医療データを統合するなど、病院経営へのフィードバックも期待できる。

 「まずは、病院が医療データ集約のメリットを享受できる仕組みを用意し、LifeMarkクラウド基盤につながる病院を増やす。次のステップとして、蓄積された医療データの価値を国家プロジェクトなどに還元する。最終的には、製薬メーカーなどの第三者が医療データを活用できる形にもっていきたいが、これはまだ未来の話」(中川氏)


富士通 ヘルスケアビジネス推進統括部 第一ヘルスケアビジネス推進部 部長 藤岡学氏(右)、ヘルスケアシステム事業本部 医療ソリューション事業部 事業部長代理の中川昌彦氏(中央)、ヘルスケアビジネス推進統括部 第一ヘルスケアビジネス推進部 シニアマネージャー 小松清美氏(左)

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