しかし、ことはそう簡単ではない。Amazonの出自がEコマース企業であることこそが、AWSが成功している理由だからだ。まず、Amazonは顧客中心主義であり、あまり利益幅にはこだわらない。Amazonの考え方は、企業は顧客に支持されてさえいれば、その事業が最終的にどうなっても、長期的には必ず報われるというものだ。第2にAmazonはEコマースの非常に薄い利益によって生まれ、育まれてきた。
この出自が、エンタープライズIT業界の現状にとって破壊的である理由は、次の通りだ。
1. 多くのITベンダーは、長年の間大きな利益幅に依存して経営を続けてきており、それは今でも変わっていない。従来のインフラやメンテナンスに支払われてきたお金は、大変な額だ。そしてエンタープライズITベンダーは、顧客に古い製品への支払いを続けてもらうために、メンテナンスの料金を下げるのではなく、監査やその他の定常的に発生する過酷な仕事を請け負っている。
2. そこへ、利益幅が非常に小さい業界からAmazonが参入してきた。AWSの粗利益はだいたい25%前後だと思えばいい。エンタープライズIT業界の従来の企業が、粗利益をAWSと同じ水準に抑えたら、これまでの半分になってしまうか、それよりも悪くなるケースも出てくる。ところがAmazonにとっては、粗利益25%は、従来の商品を売って出荷する仕事と比べると、22%も高い数字なのだ。有利なのはAmazonだ。
3. Amazonは下層から上層に向けてバリューチェーンを上がってきている。AmazonがエンタープライズIT業界に対してやっていることは、Clay Christensen氏が著書「イノベーションのジレンマ」で書いたことそのままだ。Amazonはインフラ事業で最下層からサービスを開始したが、ライバルの大手企業はそのやり方をばかにした。従来の大企業は価値の高い領域を追求しているため、市場の下層をAWSに取られても問題はないと言っていたのだ。AWSがスタックを上に上がり始めると、旧来企業が安穏としていられる上層の領域は狭まっていった。これは、トヨタが米国の自動車産業にやったことと同じだ。AWSは、ビッグデータ、アナリティクス、データベース、ビジネスインテリジェンスなどの領域に参入することで、同じことをエンタープライズIT市場で再現している。
従来のITベンダーは、組織改変や合併、大規模化、分割、その他の努力をしてクラウドを取り込もうとしているが、方程式を変えない限りはうまくいかないかもしれない。AWSはエンタープライズITベンダーが取っていた利益幅よりも、はるかに利益幅が低い世界からやってきたのだ。一部の大手IT企業は移行に成功するかも知れないが、そこに痛みが伴うことは確実だろう。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。