展望2020年のIT企業

マイナンバーに勝機を見出す

田中克己

2015-11-10 07:30

 「マイナンバーが税理業務を変える」。税理士向けクラウド型税務・会計システムを展開するアカウンティング・サース・ジャパンの佐野徹朗社長兼最高経営責任者(CEO)は、税理士の主力業務が会計業務や税務申告から経営指導にシフトしていくと予想する。マイナンバーが同社のビジネスを広げるとともに、税理士と顧問先の中小企業との関係をより深めることになるという。

クラウドサービスA-SaaSの位置付け

 佐野社長によると、従業員10人から100人規模の中小企業は全国に約80万社あり、その多くが税理士と密接な関係にある。税務や財務の専門家として、中小企業の経営者にアドバイスをしたり、資金繰りや事業継承などの相談にのったりする。

 その一方で、顧問先企業の会計・税務のデータ入力作業など付加価値の低い定型業務に多くの時間が取られる税理士もいる。帳簿の入力業務を丸投げする中小企業もあり、「財務アドバイザーとしての本来の力を発揮できないことがある」(佐野社長)。

 税理士の課題やニーズを解決するために、約800人の税理士らに出資を募って2009年6月に創業したのがアカウンティング・サース・ジャパンだ。税理士をテクノロジ面から支援する一環から、税務・会計の機能を提供するクラウドサービスA-SaaSの開発に着手し、10年から提供を開始する。顧問先企業の給与システムの機能も含まれているA-SaaSのユーザーは、15年9月時点で約2000事業所になるという。

 実は、税理士向け税務・会計システム市場は、老舗のTKCと日本デジタル研究所、ミロク情報サービスの3社が大きくリードし、新規参入のA-SaaSのシェアは「7~8%」(佐野社長)程度である。それでも、情報を一元管理するクラウド型の新しい仕組みを評価する税理士が着実に増えており、契約数は月60~70件と1年前の倍近くになってきたという。

 理由の1つがマイナンバーにある。確かに、従業員らのマイナンバーの収集、保管に頭を痛める中小企業の経営者は少なくないだろう。最大の課題は、個人情報の取り扱いの義務、責務を負わされること。

 そこで、経営者は税理士や公認会計士らに対応策を相談する。「後はよろしく」と丸投げする中小企業がいれば、税理士が彼らに代わって従業員らのマイナンバーをどう収集、保管するか考える。つまり、税理士もマイナンバーのリスクを負うはめになる。

 それを解決するのがクラウドだという。「(セキュリティなどを心配した)税理士は、クラウドの活用をリスクと思ってきた」(佐野社長)が、税理士も顧問先企業も自社のサーバやPCにマイナンバーの情報を持たなくて済む。

 A-SaaSには、従業員自身がパソコンやスマートフォンからマイナンバーを入力し、そのデータをクラウド上で管理する機能がある。税理士も中小企業も、マイナンバーを収集、保管するリスクや負担を軽減してくれるというわけだ。

 両者がクラウドを介してリアルタイムにつながり、情報を共有すれば、時間的なロスもなくなる。高価な専用機がいらないので、IT投資も抑えられる。そんなメリットにあるクラウドサービスへの切り替えを、約3万5000の税理士法人や会計事務所と税理士約7万人に提案し、A-SaaSの利用を16年12月までに今の1.5倍の約3000事業所に増やす計画を立てている。

 中小企業の経営者は会計・税務から出てきた数字を基に、税理士にどうするべきか提案を求める。「税理士のそんな力を引き出せるようにする」のもA-SaaSの役割になる。結果、「経営者は税理士の力の恩恵をうけられ、税理士は与えた価値に見合う対価をもらう」。佐野社長は、そんなストーリーを描いているように思える。

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