内山悟志「IT部門はどこに向かうのか」

多くのIT部門に欠如する自己評価能力

内山悟志 (ITRエグゼクティブ・アナリスト)

2015-11-18 10:30

 社内におけるIT部門の地位と経営者や事業部門のITに対する理解度の向上が重要だと考えるIT部門は少なくありません。一方で、それをこれまで妨げていた要因の1つが、IT部門自身の自己評価能力の欠如であることに気づいているIT部門は必ずしも多くないのではないでしょうか。

IT部門に欠如する自己評価機能

 国内の多くのIT部門からは、依然として「経営者層における情報技術の重要性に対する意識が低く、投資や戦略に関する強いコミットメントが得られない」「IT部門の社内における位置付けが低く、イニシアチブが発揮できない」「利用部門から新規・改善プロジェクトへの協力が得られない」といった悩みが定常的に聞かれます。

 経営者やユーザー部門に責を帰すことは容易ですが、IT部門が自らを律すべき点が少なからず存在すると考えるべきではないでしょうか。こうした問題の根本的な原因には、IT部門の自己評価機能の欠如があると筆者は考えています。

 自己評価機能とは、IT部門の活動やコストの妥当性、システムの活用度、SLAの達成度、ITによるビジネスへの貢献度などを自らが的確に評価することを意味します。欧米企業では計数管理の風土が根付いており、部門目標を定量化したり、自社の状況を同業他社とベンチマークしたりする取り組みが活発です。

 国内においても製造業の生産管理部門や工場においては、TQC(Total Quality Control)などの長年の活動により徹底した計数化に基づく目標管理が行われている。しかし、IT部門ではこのような計数化の文化が醸成されておらず、「可能な限り努力する」というやり方で運営されてきているのが実態といえるのではないでしょうか。

 自己評価は、自らの活動の進捗や成果を的確に把握し、次なる改善への参考とするという役割を果たすだけでなく、経営者やユーザー部門に対してIT部門の適正な運営を明示する材料にもなり得るものです。また、自己評価の結果を次なるIT戦略へのインプットとすることも重要な側面といえます。

 IT部門はこれまで、統合基幹業務システム(ERP)の導入や経営情報システムの構築によって事業部門や経営者に対して、可視化や計数管理の実現を支援してきたはずです。しかし、IT部門自身の業務の見える化や計数管理に基づく活動や改善についてどうでしょう。紺屋の白袴という状況ではないでしょうか。

自己評価に取り組む先進事例

 一方、いくつかの企業では、ユーザー満足度、アプリケーション資産の活用度と貢献度、SLA各管理項目の達成度などについてKPIを定めて、客観的な視点から定期的に評価することに取り組み始めています。ここでは、IT部門の自己評価に、業績管理などで用いられるバランスドスコアカードの考え方を応用した例を紹介しましょう。

 バランススコアカードは、1992年にRobert Kaplan氏とDavid Norton氏が提唱した戦略的な経営管理手法ですが、売上高や利益率のように結果として表れた指標だけでなく、活動の進ちょくやプロセスの成熟度といった将来的な成果を左右する先行的指標をもKPIとして管理することを特徴としています。

 また、定性的な成果もスコア化できるため、人事部門や総務部門のように数値で成果を表現しにくい間接部門の業績管理にも有効と考えられており、IT部門もこれにあてはまるわけです。

 バランススコアカードでは、成果となって表れる業績指標と、結果を左右する業務遂行上の重要な要因(パフォーマンスドライバ)の間に因果関係があるととらえ、すべての指標(KPI)を因果関係でひもづけていきます。このような因果関係は、一般に、財務の視点を頂点として、顧客、内部プロセス、そして学習と成長という順で、階層的に紐づけていくことができます。

 この関係図はストラテジマップと呼ばれ、組織が個々の目標や経営資産(企業文化や従業員の知識といった無形資産を含む)をどのように有形の成果に変えていくかを示す地図となるものです。

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