Linuxの世界で論争が起こるのは珍しくない。Sarah Sharpe氏のような有名な開発者が、Linux開発コミュニティーの本拠地であるLinuxカーネルメーリングリストを離脱したり、Matthew Garrett氏が自分のやり方を貫くために同メーリングリストを離れたりしている。また、Linus Torvals氏は、他のプログラマーのコードに対して感じたことを言うときに、まったく遠慮をしない。
ただ、Linux Foundationでは、これまであまり激しい論争は起きない傾向があった。同組織はLinuxを支える非営利組織であり、現在では、ソフトウェア定義ネットワーキング技術のOpenDaylightや、コンテナ技術のOpen Container Initiative、R言語に関する活動を支えるR Consortiumなどの、オープンソースプロジェクトの支援もしている。しかし、今やLinux Foundationでも論争が起こっている。
今は「CoreOS」のセキュリティ開発者であるGarrett氏は、最近、Linux Foundationが定款を変更し、個人メンバーが理事選挙に参加できなくなったことに気づいた。Garrett氏は次のように書いている。「理事の多くは、企業メンバーによって選出されている。10人がプラチナメンバーによって選出され(プラチナメンバーの年会費は50万ドル)、3人がゴールド会員に(ゴールドメンバーの年会費は10万ドル)、1人がシルバー会員に選出されている(シルバーメンバーの年会費は、企業規模によって5000ドルから2万ドル)。最近までは、個人会員(年会費99ドル)も2人の理事を選出することができ、コミュニティーの視点を理事会レベルで代表することができた」
なぜ、Linux Foundationはこんな変更をしたのだろうか。Garrett氏の憶測では、これはSoftware Freedom Conservancy(SFC)のエグゼクティブ理事を務めるKaren Sandler氏のことが原因ではないかという。この組織は、GPLのオープンソースライセンスを守るために重要な仕事をしており、Sandler氏はLinux Foundationの理事に立候補しようとしている。Garrett氏は、「『個人メンバー』プログラムは、いつのまにか『個人サポーター』プログラムに名称が変更されており、これまで保証されていた理事会選挙での立候補と投票への参加の権利はなくなっている(古いページと新しいページを比較してほしい)」と述べている。
なぜ、Linux Foundationはこんな変更をしたのだろうか。Garrett氏は、「Linux Foundationは歴史的にGPLの履行についてあまり熱心ではなく、SFCは同組織のメンバー(VMware)を相手取ったGPL条項違反訴訟を資金的に援助している。このタイミングは偶然かも知れないが、Linux Foundationはコミュニティーの代表の意見を聞くという上辺を捨てて、GPLの履行を求める人物が理事会に入り込まないようにすることを望んでいるように見えることは確かだ」と記した。
Linux FoundationのチェアマンであるJim Zemlin氏はこれに反論し、「Linux Foundationの理事会の構造は変わっていない。同じ人物が理事として残っており、企業に所属する理事とコミュニティーに属する理事の比率も、引き続き変わらない。われわれが行ったのは、個々のサポーターに提供する価値をいかに高められるかについての、長期間にわたる議論から得られた理解を、この10年間で初めて実行に移したということだ。そして、理事を採用するプロセスは、われわれのコミュニティーや業界で活動しているほかの主要な組織と同等のものになるよう、変更される必要があった」と述べている。
またZemlin氏は、「理事会では、コミュニティーに対する長年の貢献と、Linux Foundationの前進を支えてきた個人としてのコミットメントを評価して、Larry Augustin氏(SugarCRMの最高経営責任者[CEO])とBdale Garbee氏 (Hewlett Packard Enterpriseの最高技術責任者[CTO]オフィスのフェロー)を、一般理事として投票で引き続き選出した。また、カーネル開発者は、今後も理事を任命することになる。われわれは、Grant Likely氏が引き続き理事として参加してくれることを歓迎し、その価値を高く評価している。将来、Linux Foundation理事会は、成長を続けるコミュニティーから理事会に参加する個人を増やす選択をする可能性もある」と続けた。