さらに、昨今のベトナムの国際貿易の状況と海外からの直接投資の状況から言えば、日本語を勉強するよりも中国語や韓国語を勉強した方が、個人への経済的なメリットは大きいと言えます。日本の経済力は引き続き大きいものの以前ほどの絶対力はなく、月日とともに相対的に弱くなっているといっても過言ではありません。
それでなくとも、ひらがな・カタカナ・漢字の3言語体系がある日本語は、日本語専攻者がぶつかる壁となっています。そのため、他の言語学習と比較して費用対効果も悪くなってしまいます。
ところで、最近ではベトナムの日系企業側でも「ITが分からなくとも、日本語が通じれば入社後にすべてを教えることができるため、大学で日本語を専攻した者をITエンジニア候補として大量に採用する」というケースも珍しくなくなってきました。しかし、このことは、優秀な理工系人材がいる国で理工系人材を活用できていないことを意味します。
日本側の人材需要に対して、ベトナム側の人材供給能力が追い付いていないという問題があることも間違いありませんが、ベトナムでオフショア開発が注目されていた当初は「賃金が比較的低廉」「優秀な理工系人材の存在」の2点が日系企業に重要視されていたように記憶しています。
これら2つのメリットを享受できないとなると、ベトナムで日系企業がオフショア開発をする意義は、果たして何でしょうか。「市場としてのベトナム」というフレーズも最近多く聞かれますが、実際に進出案件をお手伝いする立場では疑問に思うことも少なくありません。このテーマについては、また別の機会に考察したいと思います。
- 古川 浩規
- インフォクラスター
- 内閣府及び文部科学省で科学技術行政等に従事したのち、平成20年に株式会社インフォクラスター、平成22年にJapan Computer Software Co. Ltd.(ベトナム・ダナン市)を設立。情報セキュリティコンサルテーション、業務系システム構築、オフショア開発を手掛けるほか、行政書士として日系企業のベトナム進出などの支援業務も行っている。資格等:国立大学法人電気通信大学 客員准教授(研究推進機構 研究推進センター 国際連携推進室)、日本セキュリティ・マネジメント学会正会員、情報セキュリティアドミニストレータ、財団法人 日本・ベトナム文化交流協会 理事など。2016年4月に行政書士事務所を開設。