ブロックチェーン

ブロックチェーンで日本経済に貢献--「日本ブロックチェーン協会」が設立

五味明子

2016-04-27 17:06

 4月27日、一般社団法人 日本価値記録事業者協会はこれを改組し、同日から「一般社団法人 日本ブロックチェーン協会(Japan Blockchain Assosiation: JBA)」として活動していくことを発表した。代表理事にはbitFlyer 代表取締役 加納裕三氏が就任し、参加事業者15社、賛助会員12社で、日本経済に仮想通貨という新たな価値記録を普及/拡大するための活動を開始する。

 今回の改組の背景について加納氏は、「マウントゴックス事件以降、仮想通貨の利用者をマネーロンダリングなどの不正から保護し、法整備を含めた規制が必要だと痛感してきた。また、ブロックチェーンが単なる仮想通貨の枠を超えて、さまざまな分野で活用されるケースが世界的に増えている現在だからこそ、ブロックチェーンを熟知しているわれわれ(会員企業)が国家の成長戦略に沿ったかたちで正しく安全に普及させていく義務があると思っている」と語り、仮想通貨事業者だけでなく、政府や金融機関の協力を得ながら活動していくとしている。「ブロックチェーン=ビットコイン」と捉えられがちな概念を拡大し、仮想通貨にとどまらない新しいサービスの創造と普及を目指す構えだ。


「一般社団法人 日本ブロックチェーン協会(Japan Blockchain Assosiation: JBA)」が発足

 日本ブロックチェーン協会の組織は以下の通り。

  • 代表理事 …… bitLlyer 代表取締役 加納裕三氏
  • 理事 …… Payward Japan 代表取締役 Jesse Powell氏
  • 理事 …… Orb 代表取締役 仲津正朗氏
  • 監事 …… レジュプレス 代表取締役 和田晃一良氏
  • アドバイザー …… ビットコイン&ブロックチェーン研究所 大石哲之氏
  • 顧問弁護士 …… 創法律事務所 斎藤創氏
  • リーガルアドバイザー …… 森・濱田松本法律事務所 増嶋雅和氏、堀天子氏
  • 参加事業者 …… bitFlyer、Payward Japan、レジュプレス、Orb、ガイアックス、コンセンサス・ベイス、カレンシーボード、シビラ、ソラミツ、Nayuta、VOYAGE GROUP、日本マイクロソフト、GMOインターネット、スマートコントラクトジャパン、デカルトサーチ
  • 賛助会員 …… デロイト トーマツ コンサルティング、GMOペイメントゲートウェイ、マネーパートナーズグループ、QUICK、FXトレード・フィナンシャル、日本瓦斯、SBIホールディングス、GMOメディア、ジェーシービー、マネースクウェアHD、Gunosy、トムソン・ロイター・マーケッツ、大日本印刷(参加予定)

 なお、同協会は海外のブロックチェーン事業者団体で構成される「Global Blockchain Forum」にも参加する。


代表理事に就任したbitLlyer 代表取締役 加納裕三氏

 今後の活動方針としては「仮想通貨部門」と「ブロックチェーン部門」の活動を2本柱とし、ブロックチェーン技術の社会インフラへの応用や政策提言を積極的に行うほか、仮想事業者向けガイドラインの作成/監査、関係省庁および関係団体との連携/意見交換、事業者間の交流/情報交換、仮想通貨やブロックチェーン技術を利用した新規事業に取り組む法人の支援などが予定されている。また、4月25日に発足した「ブロックチェーン推進協会」など他の関係団体との連携も進めていきたいとしている。

 ブロックチェーンは仮想"通貨"であるビットコインを中心に発展してきた技術である。通貨である以上、その信頼性や透明性の担保は普及する上で欠かせない条件だ。だが2014年のマウントゴックス経営破綻は、ビットコインの利用者に大きな混乱を与え、ビットコインやブロックチェーン技術の信頼を大きく損ねる結果になった。この事件を受け、各国でビットコインおよびブロックチェーンに対する法整備や規制の動きが活発化していく。

 国内では2014年6月、自由民主党 IT戦略特命委員会 資金決済小委員会がビットコインを「仮想価値」と位置づけ、規制の対象外とするかわりに自主規制団体の設立を提言し、これが日本ブロックチェーン協会の前身である日本価値記録事業者協会の設立(2014年9月)につながっている。

 今回、挨拶を行った同小委員会委員長を務める自民党の福田峰之衆議院議員は、「政府は仮想通貨の健全な発展と、ブロックチェーンを利用したさまざまな産業の振興を期待している。新しいテクノロジによって生み出されるものは新たな需要を換気してくれるはず。そのためにもマネーロンダリングやテロ資金に利用されるようなことがないよう、また利用者保護を着実に実行して、しっかりと国際的な信頼を勝ち得てほしい」とブロックチェーン技術に対する期待を語っている。


自民党の福田峰之衆議院議員

 福田議員の発言にあるように、マネーロンダリング/テロ資金対策と利用者保護はブロックチェーン普及のために避けて通れない課題となる。2015年6月には国際組織のFATF(Financial Action Task Force on Money Laundering: マネーロンダリングに関する金融活動作業部会)が各国に対しマネーロンダリング対策や仮想通貨取引所の免許/登録制に関する勧告を行っているが、日本価値記録事業者協会はこの勧告を受けて資金決済小委員会に対応方針を意見表明している。この意見をもとに、2016年3月に国会に資金決済法や銀行法などの改正法案が提出されており、新しい仮想通貨法が「2017年春ごろには施行されるのではないか」(斎藤弁護士)という段階まできている。「新しい仮想通貨法は、法律の規制と業界の自主規制を取り込んだ、おそらく世界にも先駆けたブロックチェーン規制の実例となるはず」(斎藤弁護士)

 もっともブロックチェーン技術が国内で普及するための課題はまだ多い。同じく挨拶に立った経済産業省 商務情報政策局 情報経済課長 佐野究一郎氏は、「ブロックチェーンを価値として流通させることができれば、シェアリングエコノミーの効率化や改竄のないトレーサビリティの実現など、さまざまなユースケースが期待できる。一方でビジネスとしてはまだ机上の段階であり、これから実証実験を重ねていく必要がある。経産省としても新しくなった日本ブロックチェーン協会と連携しながら、ブロックチェーン技術が社会的に実装されていくことを支援していきたい」と語っており、解決すべき課題を見つけるところから始めなければならない状況であるとしている。


デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員 荻生泰之氏

 また、資金決済小委員会のアドバイザーで日本ブロックチェーン協会の会員でもあるデロイト トーマツ コンサルティング 執行役員 荻生泰之氏は、「ブロックチェーンに関する日本の取り組みは欧米に比べて遅れている。世界の大手銀行が参加してブロックチェーンの規格を作っているR3CEVのような機関が存在しない。三菱東京UFJ銀行やみずほフィナンシャルグループなど、いくつかの大手銀行が個別にブロックチェーンへの取り組みを開始しているが、全体として規格を作っていこうという動きが生まれていない」と語り、今後、ブロックチェーン技術に関する実証実験が進むにしたがい、「机上の論理ではなく、実際での運用を見据えたプロトタイプの開発が今後はより求められる」(荻生氏)と語る。

 続けて荻生氏は、「日本の大きなシステムはユーザー企業とSIerが作ってきた。そしてこれらの企業はいずれも大企業。しかしブロックチェーンの参加企業には大きな会社はほとんどなく、これはブロックチェーンをエコシステムとして機能させるには弱い。そうした動きを促進するためのアクセラレータ的存在に日本ブロックチェーン協会がなれればいいと思っている」と発言、エコシステムとしてブロックチェーンを浸透させることの重要性を強調する。

 ブロックチェーンは、高透明性、高信頼性、高効率性というすぐれた特徴をもつ一方で、処理速度や"ビザンチン将軍問題"に象徴されるセキュリティ上の課題も指摘されており、さらなる研究開発が必要なのは衆目が一致するところだ。またブロックチェーンに対して懐疑的な目を向ける人々も少なくなく、議論の余地も多い技術である。「国家の成長戦略に沿った貢献」を本当に実現できる技術となりうるのか、日本ブロックチェーン協会の今後の活動はその重要な鍵を握ることになる。

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