それでも中国でITビジネスを続ける理由--ハードウェア編

山谷剛史

2016-06-28 12:00

 中国では物価が上がり続け、人件費が高騰している。…という書き始めの、前回の「それでも中国でITビジネスを続ける理由--ソフトウェア編」では、中国東北部の大連で頑張る日本のソフトウェア企業に話を伺った。今回は中国南部の深センを中国での拠点とし、中国製ハードウェアの開発・販売を行う日本企業に話を伺う。中国でのハードウェア販売というと、品質の問題や、ニセ物の問題がつきまといそうだが、実際はどうなのか。2001年よりハードウェアの販売事業などを行う、スリーアールシステム株式会社(本社福岡)の代表取締役社長である今村陽一氏に話を聞いた。中国人の会長とは、「互いのゴールが会社の発展という点で共通していること」「揉めてもしっかり話し合うようにしていること」「一緒に仕事をしてきた時間が長いこと」から、信用できる人間関係を構築しているという。


スリーアールシステム株式会社の代表取締役社長、今村陽一氏

 スリーアールシステムの主力商品は、デジタル顕微鏡、工業用内視鏡、スキャナといった製品だ。福岡と深センを開発拠点に、自社特許商品の製造販売やOEM・ODM生産、コンピュータ関連機器のハードウェア及びソフトソフトウェア、コンピュータ関連サプライ、周辺機器の輸出入及び製造・開発・販売を行っている。既に中国にある商品を、品質をチェックした上で日本語版にローカライズするパターンと、日本で企画から行って深センで生産するパターンの、どちらの事業もやっている。「変化に対応し、挑戦をし続ける」というスローガンを掲げ、その時々の流れに応じて「自作PC用のケースや電源」から「マウスやキーボード」へ、そしてPCからスマホへという流れの中ではモバイルバッテリや車載用のスマートフォングッズ」へと、取扱商品を変えてきた。多くの業者が倒産や撤退している中で、スリーアールシステムは創業16年目を迎えた。「お客様からご安心して頂いている理由はやはり『歴史』だと感じます。お客様からのご意見に関しても真摯に対応し続けています」「この数年はメイドインチャイナだからどうだというご意見は、お客様から聞かなくなりました。やはりAppleをはじめ、世界規模のメーカーのデジタル商品が中国で生産されているということが消費者に浸透してきたからだと感じます」と今村氏。

 前回のソフトウェアでの質問と同様に、ハードウェアについても中国の高騰する人件費や物価について尋ねた。「上がっては来ていますが、まだまだ十分に勝負できる価格帯です。中国の一部の生産工場は、生き残ろうとコストダウンを行っています。そうした工場と迅速にパートナーシップを結ぶ。これが大事です」と語る。中国の工場との提携は苦労話がいくらでもあると今村氏は話す。「親日で、日本商品を作る事に誇りを持っている工場の経営者と話すとテンションが上がりますね!しかし、工場見学に行き、しっかり人員揃えて生産しているのを見た次の日に、気になって抜き打ちで行くと、そもそも作業してない。こんな経験もいっぱいあります。実際現場に行くと怒りと絶望ばかりです(苦笑)」

 多くの中国のデジタル製品が日本に輸入されている現状で、どうやって長い間ハードウェア販売で生きてきたのか。「どうやって価格競争にならない商品をリリースしていくかを常に考えています。付加価値を上げるわけですが、そのために3つ。1つめがブランド戦略の強化、2つめが品質管理の強化、3つめがスピード。この3つが売上アップのポイントです」と語る。

 ブランド戦略や品質管理の強化とは、「メイドインチャイナは低品質でニセ物ばかり」というイメージに対し、「スリーアールなら大丈夫」というブランドイメージをユーザーにもってもらおうということだ。スリーアールシステムでは徹底的に品質をチェックすることで不良品をなくし、ユーザーに気持ちよく商品を使ってもらうことを目指す。過去に、商品が他社に真似られ、より安く売られ市場が壊れたという痛い経験をした(さらに商品を真似た業者は既に商品を売り切って市場から逃亡していた)。「結局、適正価格で流通できないと、市場が壊れ、業者のみならず、お客様にも迷惑をかけてしまう事が多い。そのためスリーアールシステム商品はしっかりとブランドを作っていく方針です」


 「特許(商標/意匠権)の強化を今も行っています。またお客様からのお声に迅速に対応するように、品質管理(不良品対策)の強化をしています。深セン支店では日本の品質基準の要求に応えられる工場の選定を行ってますし、深センと福岡の両方で、特許、品質のチェックを行っています」。これだけチェックを厳しくしないと、様々なのラップが中国で待ち受ける。「製品の企画や開発に比べて、特許の強化や品質管理は地味ですが重要です。この落とし穴で失敗して、多数の同業者がふるいにかけられるのをこの10年間見てきました」。しかし同社がいかに特許で固めていても、それを無視した製品を売り、訴えたしても罰金を払わず逃げ切る中国メーカーもいる。「これをやられると短期的には業績に響きますが、長期的に考えると「スリーアールシステムのパクリ商品は市場から抹殺される」と得意先に説明できるのでプラスだと考えるようにしています」と前向きだ。

 同社は特許で固めた製品のほかに、競争が激しいスマートフォン用アクセサリなどの製品を販売している。やりくりできる秘訣とは。「やはり楽天等のECは競争が激しい。これはこれで面白味があります。評判、価格、スピードがポイントです。ECのマーケットが広がっているので、卸よりも数が出ている商品も多数でてきています」「これは経営している私の強みになるのですが、ECも卸も、BtoCもBtoBも、それから今後行うCtoCにしても、いろんな業態の部署がありますので、強み/弱味を理解する必要があります。単独業態でやる経営者と比べると、総合判断力は圧倒的に高いと自負しています」

 様々な「中国モノづくりあるある」は、歴戦のスリーアールシステムでもかわすことは難しい。それでも同社は、同社自身で品質チェックや特許対策を行い、日本向けにはスピーディにニーズに合った製品を出し、日本での評価を積み重ね、会社を成長させている。

山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター
2002年より中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、アセアンのITや消費トレンドをIT系メディア・経済系メディア・トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014 」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち 」など。

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