課題解決のためのUI/UX

音楽プレーヤーの歴史から学ぶUXの重要性

綾塚祐二

2016-08-05 07:00

 人と音楽とのつきあい方、特に「音楽を聞く」という行為は、技術の発達に伴い常に変わり続けている。もちろん、デジタル技術の普及にも大きく影響を受けており、それらに伴いどんなユーザー体験(User eXperience:UX)の変化があったか、どんな課題が解決されてきたかを見るのによいケーススタディとなる。

 そんなわけで今回は「音楽プレーヤー」を取り上げる。コンテンツの流通のしかたの変化という意味ではコンピュータのアプリケーションなどのあり方の変化などを洞察する参考になるであろう。

レコード

 昔の「音楽プレーヤー」というとオルゴールや自動演奏ピアノなどもあるが、ここではレコードから話を始める。レコードの登場以前は人が演奏する音楽は生でしか聞けなかったが、それを「録音」しパッケージ化することで、同じ演奏を何度も聞けるようになった。生演奏の場合は時間と場所が大きく制約されコストもかかるが、それらの制約が大きく解消された。

 課題(制約)が解消されることで、UXが改善されたというよりは違う種類の新たなUXが提供されたと見るべきであろう。音質や演奏風景など、生演奏を再現できていない部分ももちろん大きかったが、レコードは広く普及した。

 ちなみに、大きくなったレコード産業は、ラジオの普及により一時壊滅的な打撃を受けている。ここでは深く立ち入らないが、近年のCD産業とネットワークとの関係と似ていて興味深い。レコードを使ったプレーヤーにはジュークボックスという興味深い形態もあるが、ここでは取り上げない。

カセットテープ、ウォークマン

 やがてテープレコーダが登場し、ユーザーが手軽に録音できるようになった。特にコンパクトカセットの登場は、媒体(メディア)の取扱いやすさなどの面でも手軽さが大きく増した。レコードよりも音質は落ちるが、手軽さから「買ってきたレコードをカセットテープにコピーして、普段は主にそちらを聞く」というようなスタイルも出てきた。

 また、レコードでは基本的に複数の収録曲をその順に聞くしかなかったが、カセットテープにいろいろなレコードから(あるいはラジオ放送から録音して)好きな曲を好きな順番で録音し(「編集」と呼ばれていた)、その順で聞くことができた。媒体は小さく軽いので、気軽に友人宅などへ持っていくこともできた。聞く側の自由度がさらに増えたのである。

 そして、音楽コンテンツを屋外に持ちだして、移動しながらなども聞けるようにしたいというUX的な観点と言えるモチベーションから、ウォークマンなどのポータブルカセットテーププレーヤーが開発された。録音できることが大きな特徴のカセットテープに対して「再生専用機」(しかもヘッドホン再生専用)というのは、発売前には大きな反発を受けたと聞く(今となっては信じがたいかもしれないが、当時はそれだけ突飛だったのである)。

 そんな「常識的判断」に惑わされずに、UX(当時はまだこの言葉はなかったが)を考えて設計した結果ゆえの成功といえよう。

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ホワイトペーパー

新着

ランキング

  1. セキュリティ

    「デジタル・フォレンジック」から始まるセキュリティ災禍論--活用したいIT業界の防災マニュアル

  2. 運用管理

    「無線LANがつながらない」という問い合わせにAIで対応、トラブル解決の切り札とは

  3. 運用管理

    Oracle DatabaseのAzure移行時におけるポイント、移行前に確認しておきたい障害対策

  4. 運用管理

    Google Chrome ブラウザ がセキュリティを強化、ゼロトラスト移行で高まるブラウザの重要性

  5. ビジネスアプリケーション

    技術進化でさらに発展するデータサイエンス/アナリティクス、最新の6大トレンドを解説

ZDNET Japan クイックポール

自社にとって最大のセキュリティ脅威は何ですか

NEWSLETTERS

エンタープライズ・コンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]