研究現場から見たAI

アメーバから学ぶロボット開発--「振動」がAI研究を進化させる

松田雄馬

2016-10-13 07:00

 昨今、情報科学において重要な技術のうちの1つとして「人工知能」が多くの場で議論されている。過去4回分のコラムでは、そもそも、人工知能というものが一体何で、ビジネスや社会とどう関わっていくのかについて、コンピュータの歴史を紐解くことによってお伝えしてきた。

 前回は、「人工知能」の主要な応用例として「自動運転」に関する理解を深めることを目指し、ロボット研究の起源と歴史を紐解くことで、自動運転のそして人工知能の未来について多面的に検討した。

 今回は、前回扱ったトピックであるロボット研究について扱う。特に、近年のロボット研究をけん引している「振動現象」とは何なのかについて説明していくことで、ロボット研究の未来について、ひいては、人工知能研究の未来についてのイメージを膨らませていくことを狙いとする。

「振動」が生み出す「知性」とは?

 「振動が生み出す知性」というトピックに関して、唐突ではあるが、1つの有名な例を紹介したい。

 暗闇の中で、ホタルの大群が一斉に明滅する現象である。この現象は「同期(シンクロ)」と呼ばれる現象であり、特に「指揮者」がいるわけでもないのに、まるで示し合わせたかのように、それぞれのホタルが明滅のタイミングを合わせ、ホタルの群れが、まるで1つの生命体のように明滅する 。明滅を、明るい状態と暗い状態とを繰り返す「振動」だとすると、個々のホタルの振動が同期(シンクロ)することで、1つの生命体を作り出しているように見えるのである。

 この現象自体を見聞きするだけだと「そのような現象もあるのか」という印象を受けるかもしれない。しかし、良く考えてみると、この現象がいかに不思議かということに気づく。

 なぜなら、個々のホタルは、勝手気ままに明滅しているにも関わらず、全体で1つのリズムを奏でるのであれば、そのリズムは誰が決めるのだろうか。すなわち、この現象には、どのようなメカニズムが働いているのだろうか。

 個々のホタルの振動は、お互いに影響を受け合い、そのリズムを少しずつ変化させていく。この現象は「引き込み」と呼ばれ、個々のホタルが、周辺のホタルと徐々に歩調を合わせあって同期(シンクロ)していくうちに、全体で、統一された1つのリズムが起こるという仕組みである。

 この仕組みの興味深い点は、群れの中の個体の数が増減しても、複数に分裂しても、さらに言えば、群れと群れが合わさっても、引き込みによって、全体で統一された1つのリズムを奏でることができるという点である。"群れ"とは言え、常に同じ個体が存在するわけではないし、個々のホタルは、周辺の状況によってそのリズムを若干ながら変化させることもある。しかしながら、群れ全体を観察すると、それらは、そうした環境の変化に関わらず、同期(シンクロ)して統一された1つのリズムを奏でるということだ。

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