R&Dにウォーターフォールアプローチは全く通用しない
現場でまず私たちが直面したのは、「作業を計画通りに積み上げていっても成果が上がるとは限らない」という、これまでのわれわれの常識を覆す事実だった。所定の成果を出すまでの期限に向けて、プランを作り、工程ごとにマイルストンを切り、スケジュール、品質、課題とステークホルダーを管理し、プロジェクトを推進するという基本的な考え方は、通常のプロジェクトとは全く変わらない。が、R&Dのプロセスの基本は「トライ&エラー」である。
たとえば、次の工程に進むために、ある物質の耐熱温度を100度から200度に上げ、かつコストダウンを実現したいといった研究開発テーマがある。そのテーマをクリアするための仮説検証の回数は一体何回になるかわからない。実験して失敗し、また仮説を変更して実験して失敗し、そして成功するといった繰り返しがR&Dだ。
通常、システム構築プロジェクトでは、「やり直し」が発生しないように工程をウォーターフォールアプローチで設計し、タスクを月、週、日といった期間で切り、必要なリソースを割り当て、成果物を定義し、進捗をチェックするというやり方が王道だが、その定石が全く通用しない。要は、R&Dにおいては、工数と成果に厳密な相関関係がないのだ。
そうなると、進捗のマイクロマネジメントには意味がなくなってくる。ましてや実験に取り組んでいるのは管理されることが苦手な研究者たちだ。自由に泳いで研究取り組んでもらいながら、スケジュール上のクリティカルパスを外さない時間軸で成果を出すことを管理するにはどうするか? それが私たちのテーマとなった。
そこで、通常日次で行っている進捗確認のサイクルを週次あるいは隔週にしたり、レポーティングで可視化する内容の粒度をあえて落としたり、と適切な落としどころを探り当てるために、私たち自身もPMのトライ&エラーを続けた。
結果たどりついたのは、「研究テーマごとにこれ以上仮説検証を繰り返しても前にいけない」というタイミングを見極め、「そろそろ別の仮説設定に戻ってはどうでしょう」ということをわれわれが促すやり方だった。
要は、目標達成に向けての進行状況をコントロールすることが、R&DにおけるPMのキモだ、と私たちは気が付いたのだ。これを、「進捗管理」に対して「目標管理」と呼んでいる。目標管理は「研究開発ステップ」の達成度と、「目標達成見込み」の達成度を掛け合わせて、「目標達成度」を管理するものだと考えてもらえればよい。