サーバとデスクトップをAWSに移行したヤマハ発動機の成果

飯田樹

2016-11-01 07:00

 サーバーワークスは10月26日、Amazon Web Services(AWS)導入を検討中の企業などに向けた 「AWSマイグレーションセミナー」を開催した。この中で、ヤマハ発動機からデスクトップ環境のAWS移行についての基調講演があり、ヤマハ発動機のプロセス・IT部の原子拓氏が自社ウェブサイトへのAWS導入と、仮想デスクトップサービス「Amazon WorkSpaces」導入の事例を紹介した。


ヤマハ発動機のプロセス・IT部の原子拓氏

 ヤマハ発動機では、2007年頃からAWSを使用しており、最初は自社のウェブサイトへの導入から始めたとのこと。グローバルな拠点のそれぞれでウェブサイトを運営していた同社は、拠点ごとに約140ものサイトを持ち、約100ものアーキテクチャをバラバラに使用している状態だった。国ごとに合わせたコンテンツを作成しているため集約は不可能であり、集約すべきではないという事情もあったという。

 「2007年頃からの一番大きい課題はセキュリティでした。コンテンツが違っても、アーキテクチャがバラバラでは非常に大変なので、グローバルで同じやり方にしたいと思っていました」(原子氏)

 グローバルで同じアーキテクチャに統一しつつも、コンテンツはローカルに保ち、スピード感も確保したいと考えていたそうだ。そこで、AWSを導入し、グローバルに統一したウェブサイトを構築することでインフラを標準化した。

 導入の流れとしては、2009年に「m1.small」で特別サイトを構築。AWSが十分使えること、短納期で安価であることを確認した。2012年には「m1.medium」「S3」で基幹ウェブサイトを構築し、同時期にはメインのウェブサイトをオンプレミスのサーバからAWSに移行。そして2013年に国内グループサイトを移行した。2016年にはそれまでオンプレミスだったコンテンツ管理システム(CMS)もAWSへと移行したとのこと。

 現在では、スピード、セキュリティ、短納期という3点において問題なく使用できているという。人的リソースの面でも「導入時の設計がきちんとできていれば運用時はほとんど人がいらないため、インフラエンジニアの人数を薄めにし、セキュリティやコンテンツなど他の部分に人員をシフトできるようになった」とした。


 続いて原子氏は、デスクトップ環境へのAWSの導入ケースについて説明。「クライアントPCとサーバは違う世界」とした上で、導入により、課題となっていた抜本的な情報漏えい対策、本質的なコンプライアンス対応、総所有コスト(TCO)の削減が達成されたことを報告した。特に情報漏えい対策が一番の課題だったといい、たとえUSBメモリを差し込めない状況にしても、クライアントPCに情報がある限り出張先でのPC紛失などによる情報漏えいのリスクが残ってしまっていたという。コンプライアンス対応についても、利用者の裁量による部分が多かったという。また、PCの仕様が多様化するのに伴い、導入時、運用時、障害発生時のそれぞれで運用面のコストが増加しているという問題もあった。

 これまで同社は、ハードウェアとミドルウェアの保守が切れるごとに、約5年のサイクルでリプレースしていた。リプレースごとに初期投資が繰り返されるため、ライセンスや保守にかかる継続的な費用に加えて、約5年ごとにコストの“山”が訪れる状態だったという。

 しかし、仮想デスクトップサービスのWorkSpacesが北米で使われているのを見て、これまでと同じ方法でリプレースする際の費用と比較。Work Spacesなら、セッティングはしっかりしているが、ハードウェアを買うよりは初期投資が非常に少ないこと、中央管理となることで、ユーザー環境の保守、運用、ライフサイクル管理のコストが低減できることが判明した。

 同社では他の商用デスクトップサービスと比較した結果、コスト面と調達基準でAWSに决定。Office 365のスタートが迫っていたため短期での導入が必要となったが、選定後2カ月で構築導入が完了した。

 導入により、ユーザーの環境やデータなど全ての情報がデータセンター側にある状態になった。そのため、当初の課題であった情報漏えいやデータ損失のリスクが低減し、標準化と統制強化によりコンプライアンスも強化された。また、センター管理によるユーザー環境の保守、運用、ライフサイクル管理が可能になり、コスト削減も実現できた。加えてリソース面では、夜間使っていない仮想PC環境を有効利用できるというメリットも生まれたという。

 さらに、業務面においても、必要な業務をいつでもどこでも安全でタイムリーにできるようになった。出社できないシーンでも業務を行うことが可能になり、ワークスタイルが多様化した場合にも必要な業務ができるようになったとのこと。

 また原子氏は、Windows 10への対応についてもコメント。この先3年程度でWindows 10を導入する必要が生じるという課題に対し、WorkSpacesであれば、Windows 7の環境をクラウドで残しておくことができ、逆にWindows 10の環境をクラウドに残しておくこともできるため、活用できるのではないかと評価した。

 一方、WorkSpacesでは地域ごとに遅延が生じることもあると指摘する。「WorkSpacesの通信速度は300Mbpsですが、ヨーロッパと南米は少し通信がカクカクします。アジア、西海岸、東海岸は大丈夫でしたが、アジアは国によってはネットワークが弱いので、その国の状況に合わせて使い分けてやっていったほうが良いでしょう。リージョンを意識したグローバル運営をしていく必要があると思われます」

 原子氏は、ウェブサイトへの導入では構築・運用コスト、WorkSpacesの導入では運用・保守コストと、両方のケースにおいてコスト低減が実現したことを講演のまとめとして提示し、コスト面でのメリットを強調した。


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