Opsの味方

「会社に評価されない」と嘆くインフラ技術者への処方箋

真壁徹

2016-11-16 07:00

 こんにちは。Opsの味方・真壁徹です。

 インフラ技術者の皆さんに向けた本連載、第1回では、NoOpsという煽り文句へ反論しました。確かにITインフラを取り巻く環境は大きく変化しており、インフラ技術者を不要と感じてしまう話題もあります。しかし、新たにやるべきことも増えているため、その仕組みを作る人が必要だ、という主旨でした。

 今回はその続きとして、「でもそれはビジネス的に価値があるのか?」という話を書こうと思います。現場がインフラ技術者を必要としても、ビジネスリーダーはそう考えないかもしれないからです。

 所属する企業のビジネスがITを前提としており、成長にインフラが不可欠な場合には、その価値について悩む必要はそれほどありません。自社インフラの構築維持や、外部サービスを使いこなす仕組みづくりに集中できます。技術力を磨き、貢献してください。

 その一方で、ITがビジネス成長にさほど連動していない、もしくは、連動していないようにビジネスリーダーから見えている企業もあります。


コストからみるITインフラのビジネスインパクト

 さて、ここで質問です。最近携わったプロジェクトで、インフラ担当者の成功指標が「安定稼働」と「コスト削減」、この2つ"以外"だったことがありますか?

 安定稼働、サービスレベルの遵守はもちろん重要です。しかし、サービスレベルが定義されていても、ちょっとでもダウンしたら心象的にマイナスになる悲しみがあります。ビジネスリーダーからプラス評価はなかなかもらえません。また、可用性はインフラとアプリ一体で向上するものなので、インフラだけに押し付けられても困ります。他の指標でもインフラ担当の価値を評価してほしいというのが正直なところです。

 では2つ目、コスト削減についてはどうでしょうか。

 インフラ担当者は、ハードやソフト、最近ではクラウドサービスの利用コストの削減に偏って力を入れがちです。しかし、このようなモノのコスト(ここではクラウドの利用料も含めてモノのコストと呼びます)を削減することにビジネスインパクトはどのくらいあるのか、今一度考えてみましょう。

 あくまで肌感覚ですが、一般的な企業でモノのコストはIT予算の1~2割といったところです。それ以外の大部分は、人件費です。仮に、必死の思いでモノのコストを半減したとしても、ビジネスリーダーからはそれほどのインパクトに見えません。むしろ現場では、あれもこれもなくなったと混乱する分、人のコストがかかってしまうおそれがあります。


 インパクトが小さければ、存在感も小さくなります。ビジネスへの貢献を考えると、コスト削減以外の価値を出さなければいけません。

 また、モノのコスト削減は、これまでのインフラ担当に閉じたやり方だけでは今後立ち行かなくなる恐れがあります。モノの性能向上は鈍化してきました。モノの性能が上がり続ければ、やることが変わらない限り、時代にあったモノへ換え続けることでコストは自然と下がります。ですが今、性能向上の象徴であったムーアの法則も、その限界がささやかれています。

 今後は、モノを交換するだけでなく、その上で稼働するアプリケーションの作り自体も工夫していかないと、モノのコストは下がらない可能性があります。もしそうなれば、インフラ技術者はアプリ開発者と協力していかなければいけません。また、サーバレス/Function as a Serviceにより、課金の粒度が関数の実行回数や割り当てメモリサイズまで小さくなってきている今、アプリ開発者がモノのコスト削減のインパクトを出せるようになっています。今後、モノのコスト削減の主役はアプリ開発者にシフトしていくかもしれません。

 「そこでDevOpsです」という声がどこからか聞こえてきそうですが、残念ながら、まだ多くの現場は、インフラ技術者とアプリ開発者が協力して問題を解決していく体制、雰囲気にはなっていないように感じます。

 分かりやすい例は、仮想化基盤です。インフラ技術者が主導し、モノのコスト削減をゴールに多くの仮想化基盤が作られました。しかし、結局うまくいかなかった例が散見されます。失敗の原因は、アプリ開発者にとってのメリットが見えなかったことに尽きるでしょう。アプリ開発者にとってはむしろ、手続きやルールが増えて、これまで以上に手間がかかった、それならその基盤の利用はお断りして、勝手に外部のクラウドを使ってしまおう、という闇の事例を数多く見てきました。その結果、そんな仮想化基盤は利用率が低いまま、今日も電力を浪費しています。

 その反省なく「次はプライベートクラウドだ」と技術だけ変えて再チャレンジしても、うまくいきません。きっと同じ失敗を繰り返します。大事なのは、使う人にとって価値があるかどうか。インフラのユーザーとは、アプリ開発者です。さらにその先にはエンドユーザーがいますが、対面しているのはアプリ開発者です。

 プロフェッショナルは、使い手、ユーザーに価値がある何かを提供してはじめて評価されると定義すると、これらのケースにおけるインフラ技術者の仕事は残念ながらプロのものではなかった、ということになります。


 DevOpsが語られるとき、たいてい話の枕でDevとOpsの対立関係が引き合いに出されます。それを乗り越えるためにやり方を変えようという話になるわけです。

 ですが、それまでの歴史や経緯はさておき、そもそも使い手、Opsから見たらDevに価値を提供できているのか、プロとしてどうあるべきかとまず考える必要があるのではないでしょうか。いろいろ言いたい気持ちはわかりますが、ここはグッとこらえて、マインドを変えてみましょう。インフラのプロとして、モノではなく、人にフォーカスしてみませんか?

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