日本のアイデアを海外で実装する流れが顕著に--量子アニーリングの国際会議が開催

山田竜司 (編集部)

2017-06-27 17:31

 「組み合わせ最適化問題」を量子力学の理論を利用して解くための汎用的な解法「量子アニーリング」に関する世界的にも最高水準と言われる研究成果報告国際会議「Adiabatic Quantum Computing Conference 2017」(AQC 2017)が、6月26~29日に日本で初めて開催している。

 都内で開催されているAdiabatic Quantum Computing Conferenceは、量子アニーリングに関する最先端の研究成果報告を目的に、2012年から毎年開催されている国際会議。この会議では、量子アニーリングに関する世界的な研究者が集結し、既存または近い将来のハードウェアで 有用な量子アニーリング(断熱量子計算)を実現するために克服しなければならない課題について、対話している。

 量子アニーリングはD-wave Systemsが販売している世界初の商用量子コンピュータに採用されていることなどから盛り上がりをみせている。開催地が日本であることから、リクルートコミュニケーションズやデンソー、Nextremer、ブレインパッド、PEZYといった企業が発表やポスター展示に参加している。

 AQC 2017運営委員である東北大学大学院 情報科学研究科 応用情報科学専攻 准教授の大関真之氏は、今回のAQC 2017について、各国、各企業の量子アニーリング研究が盛り上がっているタイミングで日本で会議を開催できた点に意義があると述べた。

 初日の発表では、GoogleやNorthrop Grumman、MIT Lincoln Laboratoryといった団体がこれまでより、進化した量子アニーリングマシンや、新たな論理を発表したという。

 量子力学の現象のひとつである「量子ゆらぎ」により、どんな組み合わせが最適かを計算する「組み合わせ最適化問題」の計算をするのが量子アニーリングの仕組みだが、この仕組みを改良したと説明する。これまでは「横磁場」という方法で量子ゆらぎの導入をしていたが、日本人が提唱した「多様な量子ゆらぎの利用」でより性能が発揮されることを実現した量子ビットのチップを開発した企業が登場した。

 「多様な量子ゆらぎを使う方法は、既存のコンピュータ上でのシミュレーションが難しいので敬遠されつつあった。だが、これを使うといいと示した日本人がいた。一方、そのアイデアに合わせて米国など海外勢が改良した量子アニーリングのマシンを開発してきた」(大関氏)

 そもそも量子アニーリング理論を最初に提唱したのは東京工業大学 理学院 物理学系 教授の西森秀稔氏だ。当の西森氏は、なぜ量子アニーリングが世界的な盛り上がりを見せるようになったかわからないほどだと笑った。

 日本でもさまざまな企業が量子アニーリングを使いつつある状況について、西森氏は「(量子アニーリングで有効な)組み合わせ最適化問題はどこの企業にも存在する(くらい汎用性がある)。一概にどんな効果があるかは業種や業態により違うが、小さなスケールで始めてみて、大きくしていけばいいのでは」と語った。

 西森研究室出身の大関氏は「西森教授が提唱した理論を利用してカナダのD-wave Systemsが量子コンピュータを作り、日本が提案した量子揺らぎのアイデアをもとに各国が新たな量子アニーリングマシンの開発競争をし、その最新情報を日本で聞いている」と複雑な心境を明かした。日本がハードウェアを作るのは開発予算の関係から難しいが、日本は独自のアイデアや発想を生かすなど、各国と補完しあう関係で進んでいけばいいのではとも述べた。


東京工業大学 理学院 物理学系 教授 西森秀稔氏(左) 東北大学大学院 情報科学研究科 応用情報科学専攻 准教授 大関 真之氏(右)

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