「ひとり情シス」の本当のところ

第3回:みんな、いつも、ひとり--情シスだけではない社内の“おひとりさま”事情

清水博 (デル)

2018-05-17 07:15

ひとり情シスへの否定的な意見

 一人でITの業務を担当するということに関しては、その不安定な状態を危惧して、否定的な意見もとても多く見られます。

  • 「一人に任せると、属人的になり過ぎて大きなリスクがある」
  • 「正当に評価されず、モチベーションが保てないので辞めてしまう」
  • 「IT運用は作業負荷が重なる時期があり、一人では対応しきれない」

 などの指摘があります。確かに、何事も一人で進めていくのには限界があり、バックアップ要員がいない状態では、ある日突然、業務が回らなくなるといった経営リスクを抱えている状況にあります。例えば、ひとり情シス担当者が急に体調を崩して業務を続けられなくなってしまったり、会社を辞めてしまったりというケースがあります。突発の事態に混乱する場合もありますが、しばらくすると、新たなひとり情シスが誕生します。

ひとり情シスは会社を空けられない

 ひとり情シスにはいくつかのタイプが存在します。中には、ITスキルがまだ十分に備わっていないのにIT担当者に任命され、分からないことばかりで右往左往している人もいます。

 最近では、オープンソースソフトウェア(OSS)やクラウドコンピューティングに関するコミュニティー活動が広がっており、交流の場や勉強の機会が身近に増えています。最新技術や活用事例を学ぶ勉強会に参加し、社外に人脈を作ることも選択肢の一つです。また、ITベンダーが開催するセミナーなども、自社製品の売り込みとは別に、講演などを通じてとても有用な情報を集めることができます。

 しかし、ひとり情シスの担当者と話をすると、セミナーに参加したいがどうしても外出できない、という声が挙がります。ヘルプデスク業務や止めてはいけない作業があって、終日社内にいなければならないとのことです。また、セミナーに参加できたとしても、懇親会で講演者と意見交換したり、ユーザー同士で議論したりするほど時間に余裕がありません。実際、金曜日の19時ごろであっても、足早に会社に戻る参加者の姿が見受けられます。

みんな、ひとり責任者

 「おひとりさま」という言葉がブームになりました。現代の世相を反映してか、数年おきに注目を集めます。当初は一人の時間を大切にする新しいライフスタイルなどを指していましたが、最近では高齢化の問題も含めて、より深刻な意味合いを持つようになっています。

 社内で組織横断プロジェクトを進める際、参画する各部門の責任者の協力を得て、取り組みを進めていかなければなりません。しかし、現実には、そのための打ち合わせを調整することすら難しい状況で、プロジェクトの進捗(しんちょく)に影響が出ないように苦慮しているひとり情シス担当者が多いです。これは、情報システム部門と同じで、経理や人事、マーケティングなどの部門でも、基本的に一人で担当しているからです。

 ひとり情シスでは、何かあったときに十分な対応が難しいとの意見があり、避けるのが望ましい部分がありますが、情報システム部門以外の各部門も既に「ひとり責任者」状態になっていて、担当者不在が引き起こすリスクは組織全体に及んでいます。緊急時の対応策はできる限り準備しているとはいえ、混乱に陥るリスクを完全に払拭(ふっしょく)することはできません。

 こうした状況について、実際に会って話を聞くと、社長を中心として各部門長の座席が隣接している環境だと、日々の会話が活発になり、和やかな雰囲気であることが多いといいます。最近では、フリーアドレス制や大部屋方式を採用する企業が増え、コミュニケーションが取りやすいカジュアルなスタイルのオフィス環境が整ってきました。そういったことも一因としてあるのかもしれません。コミュニケーション不足によって引き起こされるリスクの低減に寄与することが期待されます。

清水博(しみず・ひろし)
清水博
横河ヒューレット・パッカード入社後、日本ヒューレット・パッカードに約20年間在籍し、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス)におけるセールス&マーケティング業務に携わり、アジア太平洋本部のディレクターを歴任する。

2015年にデルに入社。パートナーの立ち上げに関わるマーケティングを手掛けた後、日本法人として全社のマーケティングを統括。現在従業員100~1000人までの大企業・中堅企業をターゲットにしたビジネス活動を統括している。アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。早稲田大学、オクラホマ市大学でMBA(経営学修士)修了。

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