コンサルティング現場のカラクリ

ITの基本戦略を設定(8):独自性を考え、疑い、計る--握るべきは未来の経営者

宮本認(ビズオース )

2019-01-19 07:00

(本記事はBizauthが提供する「BA BLOG」から転載、編集しています)

 自社の強みを伸ばすという発想もあれば、弱みを克服するという発想もある。IT部門としては、どのようなアプローチにするか一筋縄ではいかない。そこで勧めたいのは、「独自性」で自社の業務やシステムを見てみることだ。

 長い間、こだわりを持ってやってきた業務もある。顧客や相手あってこその経営である。昨日までの強みも、ある日突然弱みに変わることもある。また、経営の重点施策が弱さを際立たせるときだってある。自社独自の能力をどれだけ強化しなければならないか、独自性と自社の強みが合致するのかどうか。この点を考えておくことをお勧めする。

1.強みではないが、独自でなければならない

 こういうものはもはや存在してはならない。存在している余裕はない。読者の皆さんも、十分にお分かりだろう。もっとも、強みではないのに、独自でなければならないことを要求するユーザーがいることも分かる。昔は、そういう面倒臭いユーザーもたくさんいた。

 しかし、今はほぼこの領域は消えつつあるし、面倒臭いユーザーも徐々にいなくなっていくだろう。世の中に数多くのサービスもある。迷わず、そうしたサービスを使うべきだし、そういう方向にシフトすべきだろう。もし、そういう部署が残っているようならば、中長期的に次の(2)に持っていくべきである。

2.強みではないが、もはや独自である必要がない

 企業の中で多いのはここだ。強みだと思っているのだが、実はたいしたことをしていないというものだ。逆に独自性が邪魔になって古臭い業務となっており、もはや強みとはいえない。上述しているが、世の中には数多くのサービスが出ている。多くのものがコモディティとなって安価で利用できるようになるのは、資本主義の宿命だ。迷わず、そうしたサービスを使うべきだろう。そうしたサービスはますます進化する。自前で考えるよりも、産業全体で進化を考えてもらう方が企業全体のためとなる。

3.強みだが、独自性はない

 難しいのはここだ。強みにすべきなのだが、なかなかそうはいかない領域である。外部の力を使って、ベストプラクティスを持ってくればいいのではないかと、経営者が考えるところだ。そして、そうそううまくいかないところだ。

 うまく行かせる方法については後述するとして、独自性を持つことは捨て、まずは外部のパッケージやサービスを利用するところから入っていくべきだ。その上で、独自性を追求する必要が出てくれば、将来的に次の(4)に持って行くことを考えたい。

4.強みであり、非常に独自性がある

 ここにこそリソースと人材を振り向けるべきだ。世の中のリサーチに始まり、構想や開発のリソースも含めて、細やかに見ていきたい。「他社がやっていない業務をやっている」「他社と同じ業務だが、やり方が全く異なっている」というケースだ。

 ただ、筆者の経験上、そこまで独自性を持ってきっちりした業務を持っている企業はそうそうない。ほとんどの企業は(3)をやる中で(4)に入っていくということが多いと思う。邪魔なのは、さほどでもないのに、自分たちに独自性があると誤解をしている場合だ。議論がとてもややこしくなるため、冷静で客観な判断を行いたいところだ。

自社の業務をプロットしてみる

 自分たちが持っている営業、マーケティング、生産管理、物流、調達、事務・業務、経理、人事、業績管理、生産技術、開発などの業務をプロットしてみよう。(2)と(3)が多いようならば、とても健全だ。(3)の領域に磨きをかけ、だんだんと(4)に持って行くことを日々の業務や年度のIT部門の組織体制編成や配属を志向していくといいだろう。

 しかし、落ちこぼれ状態では、「見かけ上」は(1)と(4)に相当数プロットされることが多い。競争優位もないのに独自性を大切にしていたり、強みに対して必要以上に独自性を望んでいたりといった領域が結構ある。いや、十中八九、そういうものがある。IT部門が迷走している企業は、合理的・客観的に物事が判断されず、情実的・主観的な判断が多く、社内で「無茶」がまかり通っているものだ。

 結局のところ、落ちこぼれてしまったIT部門が基本戦略として考えるべき方向性は、(2)と(3)の領域に、いろいろなものをきっちりと入れていくことだ。うまく捨てるべきもの、優先順位を下げるべきものが数多く存在している。企業にとっての独自性をうまく捨てていくことである。そうした思い切った判断を「ひっそり」としておきたい。

 この段階では、自分自身の考えを整理しておくことで十分だ。実行に移すのは非常に難しいからだ。こうした思い切った判断をぶち上げるよりも、さっさとやってもらいたいことが結構ある。ただ、こうした判断は必要だ。なぜなら、実行があまりにも難しいので、不退転の決意を持って挑まなければ、いつまでたっても着手できないからだ。

 実行に相当な困難を伴うことは避けられない。もしかしたらできないかもしれない。いや、実際は失敗の可能性しか思い付かない状態だろう。しかし、まずは自分たちが目指すものを決めておかねばならない。そうしないと前に進めない。

 「ひっそり」といえども、可能であれば経営企画の責任者とこっそりと握っておくことをお勧めする。ポイントは、経営企画かどうかではない。将来の経営者という意味だ。数年後、経営者になったときにいかにスムーズに経営できるようにしておくか、そういう視点で見てもらえるような人と握っておくといいということだ。

 実はこれ、日本のエクセレントカンパニーで筆者が実際に経験したことをベースにしている。筆者が相対していたのは、課長クラスの人なのだが、IT化に非常に真剣だった。当初はなぜそんなに真剣なのかいぶかしがっていたのだが、その人は「自分が役員になったときにどうするか?」という視点で今の業務の不満点を見ていた。

 「こういう情報が欲しい」「この無駄は省きたい」といったことや、「グローバル企業はこういうことができるはずだが、自分たちでは無理なのでこうしたい」「会社の存立基盤をなす話なので、これだけは必ずやらなければならない」ということを経営視点で判断していた。自分が経営者になると思っているのだから当たり前だ。ちなみに、その人は、実際に役員に昇進されたことを付記しておこう。

宮本認(みやもと・みとむ)
ビズオース マネージング ディレクター
大手外資系コンサルティングファーム、大手SIer、大手外資系リサーチファームを経て現職。17業種のNo.1/No.2企業に対するコンサルティング実績を持つ。金融業、流通業、サービス業を中心に、IT戦略の立案、デジタル戦略の立案、情報システム部門改革、デジタル事業の立ち上げ支援を行う。

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