中小製造の生産ライン可視化分析に対応--NTTドコモがサービス化

國谷武史 (編集部)

2019-04-09 06:00

 NTTドコモは4月8日、外付けセンサーを利用して中小製造での生産ラインの可視化と分析を行う「docomo IoT製造ライン分析」サービスを発表した。同日から提供し、銀行と連携して全国にソリューションを展開するという。

 同サービスは、生産ラインの製造装置に外付け式の振動センサーを設置して、製造装置の稼働状態に関するデータを収集し、工場内のIoTゲートウェイ装置を介してクラウド環境に蓄積する。クラウド環境では、データの機械学習を通じて各装置の稼働状況をリアルタイムに分析し、機器の停止や動作の不具合などが生じている部分の特定、発生頻度を把握できるようにする。また、把握した症状などの改善策を講じる際のオプションメニューとして、コンサルタントによる支援も行う。

「docomo IoT製造ライン分析」サービスの概要
「docomo IoT製造ライン分析」サービスの概要

 取り付けるセンサーが5個の場合の利用料金は、初期費用が25万円、月額費が3万円、オプションメニューが個別見積り。別途IoTゲートウェイを介してクラウドにデータを転送するための回線契約やプロバイダー契約が必要になる。

 NTTドコモはサービス提供に先駆けて、医薬品メーカーの大草薬品(神奈川県横須賀市)で実証実験を行い、錠剤を封入するラインの機器に十数個のセンサーを配置して稼働状況を調べた。その結果、1つの袋に決められた個数の錠剤が正しく封入されているかを計測する機器において薬品の粉末が装置に付着してしまい、正しく計測できなくなるタイミングが生じてしまうことが判明した。

サービス前の実証実験には、NTTドコモと協業する横浜銀行の仲介で大草薬品(横須賀市)が参加した
サービス前の実証実験には、NTTドコモと協業する横浜銀行の仲介で大草薬品(横須賀市)が参加した

 また、複数の担当者で乾燥剤の封入や検品をする工程があり、ここでは以前から作業内容が効率的ではない状況であったことが分かった。大草薬品では、この実証成果を踏まえて対策を検討したところ、10%の生産性向上が見込めると判断し、今回のサービスの本格導入を決めた。

 記者会見したNTTドコモ 執行役員 IoTビジネス部長の谷直樹氏によると、同社は2018年11月に横浜銀行や京浜急行と「三浦半島地域の経済活性化に向けた連携と協力に関する協定」を締結。この枠組みを通じて、横浜銀行が大草薬品に実証実験への参加を呼び掛けた。大草薬品 代表取締役社長の大草貴之氏は、「人材不足も懸念される中で現場の生産性向上が長年の経営課題だった。今回の実験で課題解決に期待できる結果が得られたことで、他のラインにも導入して成果を見極めていきたい」と話す。

 IoT(モノのインターネット)技術を活用した生産ライン可視化などの仕組みは、製造装置メーカーやIT、通信などさまざまな業界の企業などが実用化を進める。NTTドコモが開発したサービスの内容は生産ライン可視化の基本的なもので、中小製造業にとってはニーズが高いと見られる。ただ、同要のサービスは他にもあり、ユーザー自身でも構築できる内容かもしれない。

 これらの点について大草氏は、「漠然とした範囲では改善のポイントを把握していたが、日々の業務ではなかなか着手できずにおり、具体的な技術や解決方法を知るすべもなかった」と話す。自治体の産業支援窓口などに相談することも考えられるが、「神奈川は伝統的に自動車産業が強く、その分野の知見が多いので、医薬を手掛ける当社のようなケースでは、一般的な話になってしまうことが少なくない。銀行とも現場の生産改善の方法を長い間相談していた中で、具体策とそれを試す機会をいただいた。結果に現場担当者の意欲も高まっており、この方法でどれだけの成果が得られるのかチャレンジしたい」と話した。

製造装置への振動センサーの外付けイメージ。今回のサービスではセンサーやIoTゲートウェイ機器のメーカーは基本的に問わないという
製造装置への振動センサーの外付けイメージ。今回のサービスではセンサーやIoTゲートウェイ機器のメーカーは基本的に問わないという
センサーデータはドコモのネットワークを介してクラウドに収集。機械学習で安定稼働と不具合のしきい値などを探り、その設定後に10日間ほど計測する。データはドコモの分析アプリケーションで可視化して、改善点を探れるようにする。クラウドはAWSやAzureなどが選択できる
センサーデータはドコモのネットワークを介してクラウドに収集。機械学習で安定稼働と不具合のしきい値などを探り、その設定後に10日間ほど計測する。データはドコモの分析アプリケーションで可視化して、改善点を探れるようにする。クラウドはAWSやAzureなどが選択できる

 NTTドコモと大草薬品を仲介した横浜銀行 南部地域本部長の窪田和男氏は、「当行では2018年度から県内を5つの地域に分けており、南部地域本部では横浜市南部から三浦市にかけての地域企業を情報通信やリゾートで活性化する取り組みを進めている」と説明した。NTTドコモの谷氏は、「まずはこの地域から第2、第3の事例を作りつつ、2023年度には15の地方銀行と連携して3000社程度にサービスを提供したい」と語った。

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