NECら6社、組織を超える技術で事業創出する「共創型R&D」新会社を設立

大河原克行

2020-09-10 15:50

 NECなど6社は9月10日、新会社「BIRD INITIATIVE(バードイニシアティブ、以下BIRD)」を設立し、10月から事業を開始すると発表した。

 BIRDは、デジタルトランスフォーメーション(DX)技術に関連する研究開発、受託研究、コンサルティング、投資などの事業を行うとし、事業開始時は、産業技術総合研究所や理化学研究所、NECのAI(人工知能)研究連携を通じて得られた先進AI技術を活用するという。企業が持つ漠然とした課題を明確化するコンサルティングサービスと、顧客が設定した課題を解くための研究開発を実施し、その検証環境を準備するプロトタイプ開発サービスを提供する。

 新会社には、投資ファンドのオープンイノベーション推進1号投資事業有限責任組合が出資する。同ファンドには、NECのほかに大林組、日本産業パートナーズ、ジャパンインベストメントアドバイザー、伊藤忠テクノソリューションズ、東京大学協創プラットフォーム開発が参加。BIRDの資本金は6億4000万円で、事業拡大に合せて増資も検討していくが上場は行わないという。産官学連携の強化や高度人材の強化などを行い、2025年までにカーブアウトによる6件の新事業創出を目指す。具体的な売上目標などについては公開しなかった。

 BIRDは、基礎研究は行わず研究機関などと連携し、事業化できる“シーズ”を発掘していく。事業化や商品化、システムインテグレーションは事業会社が担うことで、BIRDと事業会社が競合関係にならないようにする。また、カーブアウトにおける出資者への売却、スタートアップ企業として独立させることで得られるキャピタルゲインが収益となるほか、出資者はテーマ設定や出向者の派遣、事業シナジー、キャピタルゲイン、カーブアウトの際の買取、スタートアップ企業への出資の優先権などのメリットがあるという。

前列中央は代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者)に就任する北瀬聖光氏、同左は最高デジタル責任者の森永聡氏
前列中央は代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者)に就任する北瀬聖光氏、同左は最高デジタル責任者の森永聡氏

 代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者)に就任する北瀬聖光氏は、1993年にNECに入社。文教および科学市場で世界初や日本初と言われる最先端事業開発を実現してきた。現在はNECコーポレート・エグゼクティブやdotDataの取締役、情報経営イノベーション専門大学超客員教授も務める。これまでにdotDataのカーブアウト、オープンイノベーションによるAI創薬、Spin-Inやクラウドファンディングを活用した事業開発などで実績を持つ。

 また、最高デジタル責任者(CDO)には、NECでAIやデータ分析技術に取り組んできた森永聡氏、R&Dのプリンシパルには、NECと産総研との協業により開発した「シミュレーション×機械学習」技術のリーダーを務めた木佐森慶一氏、コーポレートチームのディレクターには、FOMA基地局のハードウェアおよびソフトウェアエンジニアなどを務め、北米市場における研究技術の事業開発を行った経緯を持つ相馬慎太郎氏が就く。さらに、アドバイザリーボードにはソニー元社長の中鉢良治氏、東京大学教授の辻井潤一氏、アートディレクターの田子學氏、弁護士の増島雅和氏が参画する。

 北瀬CEOは、「事業会社と金融会社、アカデミアが連携する。課題や技術を産官学で持ち寄り研究開発を行う『共創型R&D』を通じた新事業の創出事例であり、世界でも類を見ない研究開発事業を日本発で開始することになる」とした。基礎研究から派生したテーマ設定と最適化されたチームを組成し、顧客課題と技術から問題設定にアプローチして、問題解決の可否を検証するコンサルティングサービス、検証のためのプロトタイプを提供するプロトタイプ開発サービスを提供する。事業化に向けてカーブアウトからの事業遂行準備と実行合意、成立のほか、カーブアウト事業の事業戦略、知財戦略、資本政策の立案なども行う。

事業スキーム
事業スキーム

 BIRDが提供する先端AI技術は、「Intelligent Simulation×Automation」と表現される。データ量に必要とするAI分析とは異なり、シミュレーションで足りないデータを自動的に生成、補完することで最適な意思決定を支援する「シミュレーション×機械学習AI」、集中制御や単なるマッチングとは異なりAI同士が合意可能な条件を相談、交渉することにより、別々の目的を持って動いているシステム間での詳細な挙動や利害を調整する「シミュレーション×自動交渉AI」を活用する。

 北瀬CEOは「製造業で少量多品種の生産ライン設計における問題を解決したり、無人ドローンでは人同士のアイコンタクトなどに変わるものを提供したりすることを目指す」と述べたほか、森永CDOは「過去の大量データに頼らずAIで解決したいというニーズが高まっている。具体的には、新製品の設計案を自動生成してシミュレーションで評価し、設計を修正するといった繰り返しをAIで効率的、自動的に行う。スマートシステム間の挙動調整なら、シミュレーションで相手がのんでくれる調整案を各システムが自動生成し、互いに交換することで、相手の様子を見て調整していくことをAIが実行する。これには、技術要素や業種知識を融合させる必要があり、共創型R&Dによって実現する」と語った。

創出事業イメージ
創出事業イメージ

 先端AI技術のベースとなっているのは、NECと産総研、理研による共同成果だ。2016年6月に、産総研で初めて企業名を冠した「NEC-産総研人工知能連携研究室」を設置。2018年にはNECと産総研、理研によるAI研究での連携が始まり、2019年5月には生産プロセスの最適化を支援するAI技術を実証している。2025年までに予定している6件のカーブアウトのうち3件はこれらの技術を活用し、残り3件は出資企業などの技術を活用するという。

 北瀬CEOは、「日本企業には素晴らしい力があるが、しがらみもあり、その力を発揮できていないという課題がある」と指摘、それを打破するために、世界でも類を見ない共創型R&Dを行う株式会社を設立したとの意義を説明する。社名には、ビジネスイノベーションとR&Dの意味を込めた。「研究開発能力を解き放ち、社会を革新するビジネスイノベーションを最速でけん引し続ける。デジタルイノベーション、R&Dのビジネスアクセラレーション、R&Dエコシステムを実現する」とした。

 また、NEC 取締役執行役員常務兼CTO(最高技術責任者)の西原基夫氏は、「革新的なイノベーションを起こすには大変な努力と労力が必要。限界だとあきらめてしまうこともある。この限界を突破する思いを込めた」と話す。産学官連携などの経験から「日本には優秀な技術者や研究者がいるものの大組織に在籍している。研究開発の成果を、より汎用的に、より拡大することが日本の躍進の鍵になると考えた」とし、海外中心のイノベーションと経済の拡大が進む中で「日本が大きなインパクトを出すには、イノベーションを司る優秀なリソースを活用する潜在能力の解放と、組織の枠から離れ、社会課題を与えるために、枠組みから解放するという2つの解放が必要」とした。

 また、「多様な人材が集まり個々の強みを生かせる多様性、特定の個人や組織に偏らない課題が集まる仕組みを構築する中立性、持続的なR&D活動を可能にする事業運営を行う事業性という、3つの機能を持った組織を作る必要がある。限界を突破する研究開発能力を解き放つ日本発のオープンイノベーションの場になることを期待している」と述べた。

  一方、大林組 常務執行役員の梶田直揮氏は、「BIRDに参加して新事業創造のノウハウを習得したい。建設現場は作業者の経験や勘に頼る部分が多く、BIRDのAI技術を積極的に活用して現場の生産性向上に取り組みたい」とした。日本産業パートナーズ 代表取締役社長の馬上英実氏は、「日本の大企業の中に埋もれている技術には相当な潜在能力を持つものがある。日本の事業会社が長年培った事業を外に切り出して独立し、事業を再成長させてきたが、今回のBIRDも、NECが培った技術を事業化し、成長させるという点で重要なプロジェクト」と述べた。

 ジャパンインベストメントアドバイザー 代表取締役の白岩直人氏は、「組織の壁を超え、新たな研究開発の形を世に問うものになる。社会課題が山積するなか、さまざまなバックグラウンドを持つ英知が結集する組織が誕生する」とコメント。伊藤忠テクノソリューションズ 科学システム本部長の安永文洋氏は、「プロジェクトに参画することで、さらに高い付加価値を持ったサービスやソリューションの構築が可能になる。先端AI技術をもとに、新たな研究開発事業へと展開していきたい」と語った。

 東京大学協創プラットフォーム開発 代表取締役社長の大泉克彦氏は、「大学と事業会社との連携による新事業の創出を目指しており、その中でNECとは長年の共同研究による信頼がある。BIRDを通じて事業創出という新たなステージで協業できる。東大が持つAIの研究成果、先生の紹介、生み出されるベンチャー企業への出資などによって、プロジェクトに貢献したい」と語った。

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