「AIベンダー任せ」にはしたくない--日立造船がデジタル人材を育成する理由

阿久津良和

2021-10-26 07:00

 日立造船は社会的なDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の追い風を受けて、デジタル人材の育成に取り組んでいる。自社グループ製品のAI(人工知能)化を推進する「知能機械研究センター」を2019年4月に発足させ、次世代製品の開発に向けた研究開発を加速させてきた。同センターの責任者2人にデジタル人材の育成方法や取り組み状況を聞いた。

 日立造船は1934年5月に設立され、前身の大阪鐵工所を含め140年の歴史を数える。現在は造船事業を分離させて、環境やプラント、社会基盤を主軸事業とする。同社がデジタル人材を必要とする理由の1つが、画像認識技術を用いた検査の自動化や予防保全、機械装置のAI化など、他社製品との差別化である。

 日立造船 開発本部 技術研究所 知能機械研究センター長の斎藤英樹氏は、「製品販売にとどまらず、高付加価値化や生産性向上を目的としたサービスを付与するのが目的。例えば、化学プラントに設置されている熱交換器は何百本もの伝熱管が溶接されており、内部流体の漏えいにつながる不具合が無いことを確認するために検査が必要だ。日立造船はフェーズドアレイ技術を用いた超音波探傷検査(PAUT)と深層学習による画像認識技術を用いた『AI超音波探傷検査システム』を開発し、伝熱管端部における溶接部の欠陥や損傷を検出している」と説明する。

日立造船 開発本部 技術研究所 知能機械研究センター長の斎藤英樹氏
日立造船 開発本部 技術研究所 知能機械研究センター長の斎藤英樹氏

 他にも食品・医薬品工場の生産ライン向けに提供する、画像を用いた品質管理の記録・検証ツール「食レコAI Plus」や、ごみ焼却発電施設などに画像認識技術を用いてきた。Hitz先端情報技術センター「A.I/TEC」による遠隔監視・運転支援サービスを提供しており、「近年は運用状況をデータ化し、保守業務や次世代開発に活用する意識が浸透し始めている」と同社 開発本部 技術研究所 知能機械研究センター 技術顧問の馬野元秀氏は話す。

 日立造船のAI技術創出を担う知能機械研究センターは総勢30人程度。多くのメンバーが制御関連技術を身につけており、デジタル人材として活躍している。多くの非IT企業が社内でデジタル人材を育成する際はAIベンダーを活用するが、同社は社内育成に努めるという。その理由として、馬野氏は「もちろんわれわれだけでは不可能だが『AIベンダー任せ』にはしたくない。全てのサービスをAIベンダーに頼むと開発費が膨大になり、『ものづくりのコア要素』も取り込めない」と語る。

 「技術や経験は人に残る。そうでなければ(自社でデジタル人材育成に取り組む)意味がない」(同氏)

日立造船 開発本部 技術研究所 知能機械研究センター 技術顧問の馬野元秀氏
日立造船 開発本部 技術研究所 知能機械研究センター 技術顧問の馬野元秀氏

 斎藤氏によると、日立造船ではデジタル人材を「What(DXのXの部分)を考え出す人材。もう1つは技術的知識を習得し、How(DXのDの部分)を実現する人材」と定義している。前者は事業部門側でビジネスモデルや製品開発に活用できる人材を指す。後者は深層学習や機械学習で多く用いられるPythonなどを使ってAI開発ができる人材を指す。

 知能機械研究センターの上位組織に当たる技術研究所が2017年度から「Hitz AIラボ」を設立し、AI入門やニューラルネットワークやファジィといった技術講座を実施している。現在はコロナ禍とあってオンライン化しているが、「全従業員が対象。当初は技術系が多かったが、ここ数年は調達部門や営業部門など非技術系も参加」(同氏)しているという。

 また、2021年度下期からデザインシンキングを取り入れながら、Whatを考え出す部長クラスやグループ長(課長)クラスのワークショップの開催準備を始める。これは、別本部となるICT推進本部が中心となって進めている。本格的な活動は2022年4月から開始する予定だ。

 斎藤氏は最後に、今後の目標として「2025年までに500人のデジタル人材を育成したい」と意気込みを語った。

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